重症喘息治療への新たな一手~気管支熱形成術について~
はじめに
喘息の治療は、喘息の治療は、吸入ステロイド薬や長時間作用型β2刺激剤(気管支を拡張させる薬)のお薬などでコントロールするのが一般的です。これらの治療の普及により,近年は喘息による死亡者数は減少しています。
しかし、全喘息患者の約1割は、きちんとお薬を使用していてもコントロールが難しく、ひどい症状が出てしまう重症喘息患者さんで、喘息治療上の大きな課題でもあり、何らかの新しい治療方法の開発が期待されていました。
喘息症状は、好酸球(こうさんきゅう)などの細胞によって炎症を起こした気道が、さまざまな刺激に対して気道の筋肉(気道平滑筋)が過敏に反応し、収縮することで現れます。特に重症喘息においては気道平滑筋が厚くなり、気管支の内側が非常に狭くなっていると考えられます。
この気道平滑筋をターゲットとし、気管支鏡を用いた熱焼杓により、平滑筋量を減少させ気道収縮を軽減させることを目的として気管支熱形成術(Bronchial Thermoplasty:気管支サーモプラスティー、以下BTと略)が開発されました。2015年4月に保険適用となり、全国の専門施設で少しずつ取り入れられ、治療が始まっています。
世界で4000例以上の治療実績~臨床試験で評価されたBT効果~
BTを受けた海外の患者さん162人を対象に、1年毎に「内服ステロイド薬を服用するような喘息発作の発生率」、「救急外来の受診回数」を調査したところ、BT後1年間で、どちらも数値が下がり、その後5年間にわたって低いまま推移していることが報告されています。
またその他の臨床試験においては、喘息症状の軽減や仕事や学校などを休む日数の低下なども報告されています。
喘息に対する新たな内視鏡治療~BTとは?~
BTは、これまでの薬物による喘息治療法とは異なり、内視鏡とカテーテルを使って行う新しい治療法です。従来の治療で喘息症状がコントロールできない、18歳以上の重症喘息患者に対し、喘息症状の緩和を目的として実施されます。
なお、ペースメーカーなどの植え込み型医用電気機器を使用している患者さん、気管支鏡治療に必要な薬剤に対して過敏症がある患者さん、過去にBTを受けた方、血液凝固障害疑われている、あるいは抗凝固薬の中止が困難な患者さんなどは適応外とされます。
治療は、入院のうえ専用の装置、気管支サーモプラスティシステムを使用して行われます。気管支鏡下に電極付きカテーテルを挿入し、高周波電流を10秒間流して気管支内側を65度に温め焼灼します。1ヶ所温め終えたら少しずつ気管支粘膜に接する電極位置をずらし温める範囲を広げていきます。
BTは右下葉気管支、つぎに左下葉気管支、最後に両側上葉気管支の3回に分け、3週間以上の間隔を空けて行います。1回につき40-70ヶ所程度を温めるため、治療時間は約1時間程度かかります。
一方、治療後には一過性ですが高頻度に喘息症状増悪、血痰、無気肺、呼吸不全などの合併症も報告されており、慎重な適応判断と、合併症に対する予防策の検討も今後重要な課題と考えられています。
BTに対する期待
鳥取大学医学部附属病院でも2016年7月から治療を開始しています。まだ、日本では始まったばかりの治療手技でもあり、適応、効果、有害事象などについて専門医の慎重な判断が必要です。
当院では、既存の喘息治療では症状がコントロールできず、日常生活が妨げられていた重症喘息の患者さんの“生活の質”が少しでも改善されることを期待して、この新たな治療を普及していきたいと考えております。
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