肝臓グループ

肝臓グループでは、ウイルス性肝炎、肝硬変、肝臓がん、非アルコール性脂肪性肝疾患、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎、門脈圧亢進症などの多くの肝疾患の診療を行っています。特に肝臓がんや門脈圧亢進症に対する治療では、個々の症例に最適な治療を提供すべく、肝臓外科や放射線科と連携しチーム医療を実践しています。また肝臓グループでは、肝臓疾患に限定せず、内科医として幅広い見識を持ち、様々な病態に対応できる医師の育成を目指し、後進の指導に力を注いでいます。

診療

2021年腹部超音波関連実績

  • 腹部超音波検査 3500件
  • 腹部造影超音波検査 158件
  • 肝硬度測定(エラストグラフィー) SWE:409件、Fibroscan 170件
  • 2020年~2021年 肝処置実績250例
  • ラジオ波焼灼術115例、肝生検(腫瘍生検含む)119例
  • その他(膿瘍穿刺など)13例
  • 2018年~2021年 肝細胞癌がん薬物療法導入
  • 分子標的治療新規導入66例
  • 免疫チェックポイント阻害剤新規導入30例

1.肝がん治療

(1) 肝細胞癌に対するラジオ波焼灼療法(RFA)

肝細胞癌に対する治療はエタノール注入療法から、より根治性の高いラジオ波焼灼療法(RFA)へ移行しています。より効率的にRFAを行うために人工胸水・腹水下やCT下RFAなどの工夫を行っています。また、腹部(造影)超音波とCT、MRIとのfusion画像を用いて、より精度の高い治療を行っています。RFAの根治性を高めるため、焼灼前後のUSデータを重ね合わせて、焼灼マージンが不足している場合にはその場で追加RFAを行っています。またRFA同日か翌日にMRIを行って焼灼範囲の確認をしています。

(2) 進行肝がんに対する薬物療法

進行肝細胞癌に対する全身化学療法は分子標的治療薬を中心に進歩してきました。2009年5月に保険認可されたソラフェニブの後、2017年6月にソラフェニブの二次治療としてレゴラフェニブ、2018年3月にはレンバチニブが一次治療薬、2019年夏にラムシルマブ、2020年末にカボザンチニブが二次治療薬として登場し、肝細胞癌の治療選択肢が増えてきました。さらに、2020年秋に免疫チェックポイント阻害薬であるアテゾリズマブと血管新生阻害薬であるベバシズマブの併用療法が保険認可され、進行肝細胞癌でも複合がん免疫療法が行えるようになり、予後改善が期待されています。但し、これらの薬物には特有の副作用があり治療継続が困難な場合もありますので、より安全に治療を継続していけるように看護師や薬剤師といった多職種のスタッフと連携しています。

2.肝硬変症患者に対する集学的治療

肝硬変が進行すると、腹水、肝性脳症(高アンモニア血症)、亜鉛欠乏症、低カルニチン血症、皮膚掻痒、血小板減少症、門脈血栓症などの合併症が起きやすくなります。これらに対する薬物療法が進歩してきましたので、肝性腹水にはトルバプタン、肝性脳症にはレボカルニチン・リファキシミン・酢酸亜鉛水和物、皮膚掻痒症にはナルフィラフィン塩酸塩、観血的処置が必要な血小板減少症にはルストロンボパグ、アンチトロンビンIIIが70%以下に低下した門脈血栓症にはアンチトロンビンIII製剤を投与し、病状改善を図っています。一方、こういった薬物療法でも改善しない難治性腹水に対して、腹水濾過濃縮再静注療法(CART療法)や経頸静脈的肝内門脈静脈短絡術(TIPS)を行っています。また難治性肝性脳症のうちシャント性高アンモニア血症に対しては、カテーテルを用いたシャント閉塞術を行っています。こういったカテーテルを用いた治療は、放射線科の専門チームと綿密に連携を取りながら診療にあたっています。

3.C型慢性肝炎・肝硬変に対する抗ウイルス療法

C型慢性肝臓病に対する抗ウイルス療法は日進月歩であり、全てのセロタイプの患者さんに対して、インターフェロン(IFN)を使わない飲み薬だけの8週間~12週間の治療(直接作用型抗ウイルス剤、DAAs)が保険認可され、副作用が少なくかつ100%近い治癒率が得られています。加えて、過去のDAAs治療でも治癒しなかった症例や非代償期肝硬変に至った症例でも有効な新しいDAAs治療も行えるようになりました。但し、稀に薬剤が効きにくいC型肝炎ウイルス遺伝子変異を持った患者さんがおられますので、武蔵野赤十字病院との共同研究により、C型肝炎ウイルス遺伝子変異を測定し、個々の患者さんにあった個別化治療を実践することによって、より高い治療効果を目指しています。

4.肝細胞癌治療後の患者に対する抗ウイルス療法

慢性肝臓病患者さんに対する抗ウイルス療法は、肝病変の進行を抑えるとともに肝細胞癌の発生を抑制することが分かってきました。当科では肝細胞癌治療後の根治患者さんに対して、C型慢性肝臓病ではDAAs製剤、B型慢性肝臓病では核酸アナログ製剤(エンテカビル、テノホビルジソプロキシルフマル酸塩、テノホビルアラフェナミドフマル酸塩)の投与によって、肝細胞癌の再発が有意に抑えられ肝予備能も改善することを期待して、積極的に治療を行っています。

5.非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の診断と治療

従来NAFLDは単なる脂肪肝として重篤な疾患とは考えられていませんでした。しかし、NAFLDの一部である非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は肝硬変、肝がんと進展することが明らかとなり、近年増加傾向にあることもわかってきました。肝臓グループではNASHを診断するために肝生検を行い、早期に治療を開始するようにしています。さらにNASHやNAFLDの内臓肥満との関連を調べるとともに、治療効果の推移を血清マーカー、腹部超音波検査による内臓脂肪の評価、超音波エラストグラフィーによる肝硬度測定で行っています。NAFLDでは糖尿病や脂質異常症といった併存疾患をお持ちの方も多く、内分泌代謝内科と協力して診療を行っています。

5.肝細胞癌の早期診断と肝炎ウイルス陽性者の掘り起こし

従来、肝細胞癌の約90%はB型肝炎およびC型肝炎ウイルスが原因であり、これらのウイルス陽性者(キャリア)は肝細胞癌の高危険群であることから、定期的に腫瘍マーカー測定(AFP、PIVKA-II)や画像検査(腹部超音波、腹部ダイナミックCT、EOB-MRIなど)で経過観察(サーベイランス)を行うことにより、肝細胞癌の早期発見が可能でした。当科では、肝細胞癌の高危険群であるB型とC慢性肝臓病患者さんを厳重に経過観察を行うことにより肝細胞癌の早期診断を行い、生命予後の改善に繋げるべく日々努力しています。当院だけではなく鳥取県内の主な医療機関、鳥取県健康対策協議会、鳥取県肝疾患相談センターとも協力して、肝発癌高危険群に対するサーベイランスが守られるように対策を行っています。また、B型・C型肝炎ウイルスに感染していることを知らずいきなり肝細胞癌と診断される患者さんもおられるため、肝炎陽性患者さんの掘り起こしのために市民向け講演会・ラジオ番組・ケーブルテレビ放送・新聞チラシなどを活用した啓発活動を行っています。一方、B型とC型肝炎ウイルスが陰性にもかかわらず肝細胞癌が発生する非B非C型(NBNC)の肝細胞癌が増加しています。NBNC型の肝細胞癌の多くは偶発的に進行した状態で見つかります。NBNC型の肝細胞癌の原因として、アルコール、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、過去のB型肝炎ウイルス感染、糖尿病などの生活習慣病など等が推測されていますが、まだ明確となっておらず、研究を進めています。

6.肝炎ウイルス陽性者受診勧奨システムおよびHBV再活性化対策

鳥取大学医学部附属病院の電子カルテアラートシステムを活用し、肝炎ウイルス陽性者受診勧奨およびHBV再活性化対策に取り組んでいます。科内に付設されている鳥取県肝疾患相談センターのスタッフや、看護師、薬剤部、医療情報部、医療補助員(クラーク)が協力し、肝炎ウイルス陽性者を適切な肝疾患診療につなげ、HBV再活性化による肝炎を防ぐための効果的な院内連携体制を構築すべく取り組んでいます。