胆膵グループ

1.内視鏡診療

(1)内視鏡的逆行性胆膵管造影
(ERCP:Endoscopic Retrograde Chorangiopancreatography)

膵臓または胆道(胆嚢、胆管、十二指腸乳頭)のいずれかに異常がある場合に行う、内視鏡を用いた診断または治療になります。診断に際してはCT やMRI、超音波検査で発見することのできない病気や小さな異常(早期の癌など)を発見することが可能になります。また、病気が良性・悪性の鑑別困難な場合には、胆汁や膵液を採取し、後日その中に含まれる細胞を観察し診断します。

膵管の閉塞による閉塞性膵炎や、胆管閉塞による閉塞性黄疸、急性胆管炎に対しては、ステントを留置することで閉塞を解除できます。特に肝門部領域の胆管がんに対しては複数本の胆管ステントを留置し、患者さんがより良い状態で過ごせるように努力しています。

胆管結石に対しては手術でお腹を開けることなく、内視鏡的に結石の除去を行います。当院では基本的に完全結石除去を目標としており、これまでにも難治とされる超巨大結石や、肝内胆管の治療にもあたっています。

(2)経口胆道鏡/膵管鏡
(POCS/POPS:Peroral Chorangioscopy/Pancreatoscopy)

ERCP用の内視鏡に、細径の内視鏡を装填して行う検査です。経口胆道鏡/膵管鏡を用いれば、胆管内、膵管内を直接観察でき、組織の採取も行えます。当院では2016年にSpyGlassTMDSを導入以降、2021年3月までに250例の患者さんに処置を行っています。

2019年度発刊の胆道癌診療ガイドラインでは、胆管癌に対する治療前の病理診断が、手術適応を問わず推奨されています。さらには切除可能な遠位胆管癌は、肝門側へ水平進展することが多いとされ、術後の局所再発に影響するため、病変範囲を明らかにすべくMapping生検が重要です。胆道癌では比較的侵襲度の高い術式が選択されるため、当院では消化器内科から外科へ、できる限り正確な術前診断を提供するように努めています。

胆管粘膜を直視下に生検

総胆管結石では、巨大結石や、胆管内を占拠する大きな積み上げ結石において、透視下の内視鏡的機械的結石破砕術(EML)では砕石術に難渋することがあります。罹患される患者さんが高齢であることが多く、胆管ステント留置による姑息的治療が試みられる場合もありますが、ステント閉塞時には胆管炎を合併し、時に重篤になるため、当院では原則、完全結石除去を目指しています。POCSによる直視下であれば安全にEHLを施行できます。

巨大総胆管結石を直視下にEHLで破砕

また、2019年6月に内視鏡透視室をリニューアルしました。全システムを天吊りとし衛生面を向上させ、背面にはCO2・O2送気、吸引、LAN、電源などを中央配管とし、オゾン脱臭装置、室内7色LED等を配備し、患者さま、医療者にとってストレスを極力抑えた新しい処置室となりました(図3)。当院では最新の機器を活用し、安全で確実、有効性の高い胆膵診療を、今後も追求したいと考えています。

(3)超音波内視鏡
(EUS:Endoscopic Ultrasonography)

超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA:EUS-fine needle aspiration)

【超音波内視鏡とは】

超音波内視鏡(EUS:Endoscopic Ultrasonography)とは、文字通り内視鏡検査に超音波検査を組み合わせたものであり、消化管(食道、胃、小腸、大腸)から周辺組織の観察を行う検査です。一般的に胃カメラや大腸カメラを代表とする内視鏡検査が消化管の表面を観察するのに対して、EUSは通常の内視鏡では直接観察することができない消化管の壁内や外側の臓器が観察できることが最大の特徴です。体表から行う腹部超音波検査(AUS:Abdominal Ultrasound)も苦痛や身体への負担なく腹部臓器を診断できる有用なモ検査ですが、腸管ガスなど様々な要因によって目的部位の描出が困難となることがあり、そのような場合にもEUSは非常に有用な手段となります。

【超音波内視鏡検査】

EUSは前述の通り超音波画像を用いて病変の画像診断を行うことはもちろん、病変から組織を採取することで細胞・組織の診断(病理診断)をも可能にします。これを超音波内視鏡ガイド下穿刺吸引(EUS-FNA:EUS-guided fine needle aspiration)といい、以前には組織学的な確定診断が困難であった膵腫瘍なども確定診断をつけられるようになり、診断に応じた適切な治療方針を立てることができるようになりました。また、EUS-FNAの適応臓器は膵臓のみならず、胆嚢や胆管、リンパ節などのEUSで観察が可能である上腹部臓器はもちろん、食道からのアプローチによる縦隔病変穿刺や大腸からのアプローチによる骨盤内領域病変穿刺も行うことができます。

【超音波内視鏡治療】

EUSは診断のみならず治療の際も多くの場面で活躍します。胆膵疾患には全ての癌腫の中でも最も予後が悪いと言われている膵癌や胆道癌があり、これらの治療を行っていく中で黄疸という症状がしばしば出現します。この黄疸を解除するためにERCPという手法(他項参照)を用いて治療が試みられますが、様々な要因によって治療困難となることがあります。このような場合、これまでは体表からチューブを胆管に挿入してドレナージを行う経皮経肝的胆道ドレナージ(PTBD)が行われてきましたが、本治療は体外にチューブが出ることから日常生活に支障を来すことが最大の欠点として挙げられます。そこで超音波内視鏡下胆道ドレナージ(EUS-BD:EUS-guided biliary drainage)というEUS-FNAの技術を応用して胆道ドレナージを行う技術が開発されました。胃や小腸から胆管を穿刺してドレナージを行うもので非常に有用な手技ですが、高度な技術・知識・判断力が必要であり、EUS治療に習熟した医師による施行が必須です。また、穿刺する部位を変更することによって様々部位のドレナージも可能となり、膵管であれば膵管ドレナージ(EUS-PD)、嚢胞であれば嚢胞ドレナージ(EUS-CD)と非常に応用性の高い手技でもあります。一方でドレナージとは逆に薬液を注入する治療もあり、癌性疼痛を来す患者さんに対して神経叢や神経節にエタノールを注入することで疼痛を緩和する治療(EUS-CPN)も行っております。

いずれの治療も当院では多くの経験を有する医師の元で全ての治療が可能であり、他病院で実施困難な症例に対してもほぼ全ての処置を完遂しています。

2.胆膵癌に対する化学療法

当科における膵臓癌、胆道癌(胆嚢癌・胆管癌)に対する化学療法 膵臓癌(浸潤性膵管癌)

[1]外科的手術前に行う化学療法(術前化学療法)

近年、外科的に切除可能な膵臓癌に対して、術前に行う化学療法(ゲムシタビン+S-1併用療法)の有用性が示され、膵臓癌の外科的加療の前に術前化学療法を行うことが一般的となりつつあります。当院においても、膵臓癌の手術加療を予定する場合、原則として、術前化学療法(ゲムシタビン+S-1併用療法)を施行しています。

[2]切除不能 膵臓癌に対する化学療法

切除不能(局所進行もしくは遠隔転移を有する)膵臓癌に対して、2001年にゲムシタビン療法、2006年にS-1療法が保険承認されました。現在は、主として以下の2つの治療法のいずれかが第一選択として行われています:

1 FOLFIRINOX療法(5-FU・ロイコボリン・オキサリプラチン・イリノテカン併用)(2013年保険承認)
2 ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法(2014年保険承認)

2020年6月、一次治療後に増悪した場合に適応となる5-FU/LV+ナノリポソーム型イリノテカン(オニバイド®)療法が保険承認されました。適応となる患者様に対して積極的に提案・施行しています。

さらに、患者様が生まれながらにもつ遺伝子変異(生殖細胞系列変異)として、特定の変異(BRCA変異)を認める場合、分子標的治療薬であるオラパリブ(リムパーザ®)療法が2020年12月に承認されました。この薬剤は、FOLFIRINOX療法で用いられるオキサリプラチンなどプラチナ製剤を含む化学療法を施行した後の維持療法として用いられます。遺伝子診療科と連携して、生殖細胞系列におけるBRCA変異の有無について、治療の早い段階で検査を行い、当該薬の使用が適応となる可能性について検討しています。

当科では、患者様が、生活の質を保って長く生活していただけることを目標として、患者様の全身状態に応じて、上記の治療方法ならびに従来から行われてきたゲムシタビン療法・S-1療法などを組み合わせて治療を行っています。

切除不能胆道癌(胆のう癌・胆管癌)に対する化学療法

現在、以下の二つの治療方法のうちいずれかが第一選択として行われています:

1 ゲムシタビン・シスプラチン併用療法(GC療法)
2 ゲムシタビン・S-1併用療法(GS療法)

一方、従来から用いられているゲムシタビン療法・S-1療法は、比較的副作用が少ない治療方法です。当科では、これらの治療方法の中から、患者様の全身状態等に応じて、最適な治療を提案し行っています。また、FGFR融合遺伝子陽性の切除不能胆道癌に対して、線維芽細胞紡織因子受容体(FGFR)阻害剤であるペニガチニブ(ペマジール®)が2021年3月に保険承認されました。適応となるかどうかの検査は、現状では次に述べるがん遺伝子パネル検査で行うこととなっています。

がん遺伝子パネル検査について

固形癌に対する化学療法一般において、癌組織の遺伝子変異の情報を調べ、治療方法(保険診療・治験)を検討することを目的に、がん遺伝子パネル検査が2019年6月に保険承認されました。当検査は、標準的治療方法の施行が増悪により終了となる、もしくは終了が想定される場合に、癌組織の遺伝子変異を網羅的に調べるものです。

当院はがんゲノム医療連携病院となっています。がん遺伝子パネル検査は、すべての患者様に適応となる検査ではありませんが、適応となる場合に、癌組織の検体を検査に提出し、がんゲノム医療拠点病院である岡山大学と連携して、最適な治療方法や、当該疾患において日本国内で行われている治験に適応となる可能性について検討し、患者様に提案しています。

当科における胆膵癌に対する化学療法の現状と展望

膵臓癌や胆道癌においては、腫瘍の存在する場所によって、また、疾患の進行に伴う腫瘍の増大に伴って、しばしば胆道の閉塞を来します。胆道閉塞によって胆管炎や黄疸を来した場合、化学療法ができないばかりか、生命予後に大きな影響を及ぼします。治療開始前もしくは開始後に胆道閉塞を認めた場合、内視鏡的アプローチによって胆管ステントを留置し、胆道閉塞を解除した状態で治療を開始・継続します(胆道ドレナージの項目を参照下さい)。ステントの改良や超音波内視鏡(EUS)下胆道ドレナージ法の導入により、胆道ドレナージは近年著しく進歩しており、胆道閉塞を来している症例においても、化学療法が速やかに導入でき、かつ、途切れなく継続できるようになっています。胆道ドレナージと化学療法の進歩により、難治癌の代表である膵臓癌・胆道癌においても、予後の延長が期待されます。低分化型の膵癌(退形成癌を含む)や腹膜播種によりイレウスを来した場合など、予後が依然厳しい場合もありますが、当院において、局所進行膵癌において3年、遠隔転移を伴う膵癌において2年前後の予後が得られる例もみられるようになっています。

胆膵領域を含む当科における化学療法件数は増加しており、2021年の実績で述べ1344件となっています(消化管・肝臓領域を含む。内服抗がん剤のみは除く)。

3.胆膵領域の研究

(1)合成セクレチン製剤を用いた膵液細胞診による膵癌診断

膵液細胞診は既報によるとその正診率は50%前後と良好ではありません。我々は、EUS-FNAでは診断できない膵癌に対して合成セクレチン製剤を用いた膵液細胞診により、その正診率を88.8%にまで高めることに成功しました(Matsumoto K et al.JGH2014)。

既存の画像検査では同定できない0.2mmのとても小さな膵癌を発見することにも成功しています。

(2)TSCI
(Target sample check illuminator)

EUS-FNAを施行した際に採取される組織は、血液の混入などが影響して病変の組織が採取できたかどうかの判断が困難なことが多いです。検体採取後すぐに病理医や細胞士によって迅速細胞診が実施されればよいですが、病理部の人手不足により迅速細胞診が導入できない施設が大半を占めています。そこで我々は特定の波長の光を出すTSCIを開発し、その光を採取検体に当てることで適切な検体が得られているかどうかの診断能の向上に寄与することをhigh volume centerを含めた他施設共同研究で確認しました。2015年に企業と提携・上市し、各御施設より好評をいただいております。

(3)山陰地方における膵・胆道癌診療実態調査

山陰地方における膵癌・胆道癌診療について、その実態を調査・分析しています。
治療前の病理組織学的エビデンス取得の状況などを検討し、当科関連病院全体での膵癌・胆道癌診療の均てん化につなげています。
また、胆道癌の実態調査においては、当科関連施設のみならず、島根大学医学部附属病院ならびにその関連施設にも御協力を仰ぎ、山陰地方における胆道癌診療の実態を明らかにすると共に、早期発見などにおける新たな知見について検討しています。