鳥取大学医学部精神行動医学分野の兼子幸一教授、岩田正明准教授、山梨豪彦助教らのグループは、人の体内でつくられる「βヒドロキシ酪酸(BHB)」に抗うつ作用があることを明らかにしました。
うつ病の治療には主に抗うつ薬が用いられますが、残念ながら一部の患者さんには十分な効果が得られません。抗うつ薬は共通の薬理作用を基盤にしていることから、新たなメカニズムに基づいた抗うつ治療法の開発が課題となっています。脳内の炎症性物質がうつ病の病態に関与していることが多くの研究で示唆されており、炎症性物質を抑えることがうつ病の治療となる可能性があります。BHBは糖分が不足した際に体内で作られる物質の一種であり、炎症を抑える作用があることが近年報告されました。本研究では、慢性ストレスによるうつ病モデルラットに対して繰り返しBHBを投与し行動を評価したところ、BHBを投与したラットは抑うつ的な行動が減弱することを発見しました。このことから、BHBに抗うつ作用がある可能性が示唆されました。さらに急性のストレスにより、脳内の海馬におけるインターロイキン-1β(炎症性物質)が増加しましたが、BHBを事前に投与することでそれらの増加が抑えられました。今回の研究で、BHBがストレス時の有害な物質の増加を抑えることで抗うつ作用を発揮することが示唆されました。
現在使用されているうつ病の治療薬は神経と神経のつなぎ目であるシナプスで「モノアミン」という物質を増やすことを主作用としています。今回の発見はこれまでとは全く異なる作用機序でうつ病の予防・治癒を目指すものです。難治性うつ病と言われる患者さんの中には体内の炎症性物質が高いと言われており、従来の抗うつ薬で改善を認めない患者さんへの効果が期待されます。BHBは様々な方法で生体内でも産生量を増やすことができます。
今後は、BHBによる抗うつ治療を臨床的に応用できる方法を模索し、研究を進めていまいります。