精神科
平成29年度の精神科の活動状況を,入院診療,外来診療,同年度より新たに開始したリエゾン診療、研究に分けて報告致します.
1.入院診療
大学病院としての高度医療を担うべく,当科病棟の中心的役割は他の医療機関で対応困難な精神疾患の診断・治療にあります.平成29年度の新規入院患者数は133人と前年度比で13人増加しました。主な疾患は、治療抵抗性を示す統合失調症や気分障害,外来治療が困難な重症の神経性やせ症,発作または精神症状が顕著な症候性局在関連てんかんなどです。また、身体合併症をもった患者さんの入院治療も当病棟の重要な使命と認識しております。
統合失調症の難治症例では,非定型抗精神病薬クロザピンが有効ですが,顆粒球減少症等の重篤な副作用が生じるリスクがあります。当科では血液内科のご支援を頂きながら,平成29年度も2名の方に投与し,治療効果をあげています.また、統合失調症やうつ病の昏迷状態では緊急の治療的介入が求められます.そうした場合には,麻酔科との共同の下,修正型電気痙攣療法を行っています.今年も,地域の連携病院からの御紹介例を含めた患者さんで合計89回実施し,多くの場合に著効を得ています.
2.外来診療
平成29年度の外来の新規患者数は368人と前年度比で54人増加しました。今年度も高齢者のうつ病、神経発達症の特性が関係する抑うつ状態や適応障害の患者さんの受診が多い傾向が続いています。特に、発達に関する問題の指摘を受けたことがない方で、受診時の精神症状に発達特性が寄与すると考えられる患者さんの受診が目立ちます。いわゆる閾値下特性であっても、精神症状や社会機能の低下と関連する可能性があるため、特性を踏まえた治療・支援がますます求められています。当科では、生活歴の聴取や心理検査の結果を踏まえ、個人ごとに適したコミュニケーションの在り方を模索することが問題の軽減に役立つと考え、日常診療での実践を試みています。
3.リエゾン診療
当科では看護部のご協力の下、平成29年4月に精神科リエゾンチームを立ち上げました。看護師、精神保健福祉士、薬剤師、精神科医で構成される本チームは、身体科病棟に入院中の方に生じるメンタルケアの問題にスムーズに対応することを目的にしています。初年度となる平成29年度の新規依頼患者数は240人でした。せん妄や抑うつ状態などの精神疾患を併存すると、もとの身体疾患の治療にも支障が生じます。身体疾患の治療が円滑に進むため、また患者さんのQOLを高めるためにも、精神疾患の治療に加えて予防においても貢献して参りたいと考えております。メンタルの問題の可能性が疑われる場合には精神科リエゾンチームにご紹介下さいますようお願い致します。
4.研究活動
当科では,現在,統合失調症の認知リハビリテーション,精神疾患に関係する大域的脳内ネットワーク,ストレス性うつ病に関与する炎症関連分子機構の研究に取り組んでおり,その成果を公表しています.特に平成29年度には、β-hydroxybutyrateという生体由来の物質がうつ病の治療候補の可能性を示した研究(引用文献4)、統合失調症の社会機能に前頭極というヒトで最も進化した脳領域が関係する可能性を示した研究(引用文献3)などの臨床的に有意義な成果を得ることができました。今後も,新たな診断法・治療法の開発に励んで参りたいと思います.
当科は,今後もメンタルヘルスを担う地域の中核医療機関として,広い視野と専門性を基礎として,「脳とこころの医療センター」の一員として,その診療やリハビリテーションに取り組んで参りたいと考えております.
平成29年度の主要発表論文
1) Pu S, Nakagome K, Itakura M, Iwata M, Nagata, Kaneko K. Association of fronto-temporal function with cognitive ability in schizophrenia. Scientific Reports. doi: 10.1038/srep42858, 2017.
2) Terachi S, Yamada T, Pu S, Yokoyama K, Matsumura H, Kaneko K. Comparison of neurocognitive function in major depressive disorder, bipolar disorder, and schizophrenia in later life: a cross-sectional study of euthymic or remitted, non-demented patients using the Japanese version of the Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia (BACS-J) Psychiatry Research 254: 205-210, 2017.
3) Itakura M, Pu S, Ohdachi H, Matsumura H, Yokoyama K, Nagata I, Iwata M, Kaneko K. Association between social functioning and prefrontal cortex function during a verbal fluency task in schizophrenia: A near-infrared spectroscopic study. Psychiatry and Clinical Neurosciences, doi: 10.1111/pcn.12548, 2017.
4) Yamanashi T, Iwata M, Kamiya N, Tsunetomi K, Kajitani N, Wada N, Iitsuka T, Yamauchi T, Miura A, Pu S, Shirayama Y, Watanabe K, Duman RS, Kaneko K. Beta-hydroxybutyrate, an endogenic NLRP3 inflammasome inhibitor, attenuates stress-induced behavioral and inflammatory responses. Sci Rep doi: 10.1038/s41598-017-08055-1, 2017.
5) Pu S, Nakagome K, Itakura M, Ohtachi H, Iwata M, Nagata I, Kaneko K. Right frontotemporal cortex mediates the relationship between cognitive insight and subjective quality of life in patients with schizophrenia. Front Psychiatry. doi: 10.3389/fpsyt.2018.00016.
文責 兼子 幸一