精神科

平成28年度の精神科の活動状況を,入院診療,外来診療,研究に分けて報告致します.

1.入院診療

 入院治療では,高度医療機関としての大学の役割を担うべく,他の精神科医療機関では対応が困難な病態にある精神疾患の診断および治療に力を入れています.統合失調症や気分障害の治療抵抗性の症例,身体合併症の治療,るい痩の程度が著しい重症の摂食障害(神経性やせ症),難治性発作や精神症状が顕著な症候性局在関連てんかん,行動・心理症状が前景に立つ一方で身体管理も必要な認知症などが高度な精神医療の対象になります.

 統合失調症の難治症例では,現在,標準治療で使用されている非定型抗精神病薬の有効性が不十分であったり,筋強剛や嚥下障害などの運動面での副作用のために継続使用が困難になることもあります.こうした症例に対しては,やはり非定型抗精神病薬であるクロザピンの適応がありますが,顆粒球減少症などの重篤な白血球関連の副作用が生じるリスクがあるため,血液内科のご支援を頂きながら,入院環境で慎重に使用しています.平成28年度も2名の方に投与し,一定の治療効果をあげています.

うつ病や双極性障害という気分障害においては,今年度も抑うつ状態の鑑別目的に侵襲性が極めて低い光トポグラフィー検査を20名以上の方に行い,最適な薬物療法と心理療法の組合せによる治療が可能になるとともに,再発予防にも力を注いでいます.また,精細な心理検査を行うことで,病状遷延と関係する要因を明らかにし,適切なストレスコーピングの獲得を援助しています.

 統合失調症やうつ病で昏迷状態が生じると,不眠や不食などによる身体状態の衰弱をきたし易く,緊急の治療的介入が求められます.そうした場合には,麻酔科との共同の下,修正型電気痙攣療法(mECT)を行っています.今年も,地域の連携病院からの御紹介例を含め,5名の方に実施し,うち4名の方で著効を得ています.

 摂食障害の場合,中年発症で十分な周囲のサポートを受けにくい方が回復しにくい傾向が認められため,家族等に対する心理教育を含め,支援体制を構築することで患者さんご自身の治療意欲や自己効力感の向上に努めています.

2.外来診療

平成28年度,外来の新規患者数は前年度に比べて減少しましたが,重症度や治療抵抗性はより高い傾向にあります.この背景には,市中の病院やクリニックとの役割分担が進み,主として重症度の高い方や治療抵抗性の病態の方が紹介受診されている場合が目立ちます.とくに,発達障害の特性が社会適応を困難にしていると考えられる患者さんは,初診の方の約3割に上っています.必要な検査を行い,対人コミュニケーションの困難,こだわり,感覚過敏などの発達障害の特性を明らかにすることは,当事者や周囲の支援者が,認知機能や対人関係での困難な点を知ることを可能にし,生き辛さの軽減に貢献しています.とくに,脳とこころの医療センターや臨床心理相談センターの臨床心理士との連携によって,日常生活に役立つ支援の提供を心掛けました.

また,少し遅れていますが,平成29年度内の開始を目指して,院内他科に入院中の方に生じるメンタルケアの問題にスムーズに対応するべく,精神科リエゾン診療の体制化の準備を行っています.

3.研究活動

当科では,現在,統合失調症の認知リハビリテーション,精神疾患(統合失調症,双極性障害,自閉スペクトラム症)に関係する大域的脳内ネットワーク,ストレス性うつ病に関与する炎症関連分子機構,うつ病の内分泌学的機構の研究に取り組んでおり,その成果を公表しています.今後も,新たな診断法・治療法の開発に貢献して参りたいと思います.

当科は,今後もメンタルヘルスを担う地域の中核医療機関として,広い視野と専門性を基礎として,「脳とこころの医療センター」の一員として,その診療やリハビリテーションに取り組んで参りたいと考えております.

平成28年度の主要発表論文

1)  Iwata M, Ohta K, Iwata M, Ota KT, Li X-Y, Sakaue F, Li N, Dutheil S, Banasr M, Duric V, Yamanashi T, Kaneko K, Rasmussen K, Glasebrook A, Koester A, Song D, Jones KA, Zorn S, Smagin G, Duman RS. Psychological stress activates the inflammasome via release of adenosine triphosphate and stimulation of the purineregic type 2X7 receptor. Biological Psychiatry, 80:12-22, 2016.

2)  Masai M, Pu S, Yokoyama K, Matsumura H, Yamanashi T, Itakura M, Sugie T, Miura A, Nagata I, Iwata M, Kaneko K. Residual symptoms were differentially associated with brain function in remitted patients with major depressive disorders. Yonago Acta medica, 59: 15-23, 2016.

3)  Pu S, Nakagome K, Itakura M, Iwata M, Nagata I, Kaneko K. The association between cognitive deficits and prefrontal hemodynamic responses during performance of working memory task in patients with schizophrenia. Schizophrenia Research. 172: 114-122, 2016.

4)  Pu S, Nakagome K, Yamada T, Itakura M, Yamanashi T, Yamada S, Masai M, Miura A, Yamauchi T, Satake T, Iwata M, Nagata I, Roberts DL, Kaneko K. Social cognition and prefrontal hemodynamic responses during a working memory task in schizophrenia. Scientific Reports. doi:10.1038/srep22500, 2016.

5)  Pu S, Nakagome K, Miura A, Iwata M, Nagata, Kaneko K. Associations between depressive symptoms and fronto-temporal activities during a verbal fluency task in patients with schizophrenia. Scientific Reports. doi: 10.1038/srep30685, 2016.

6)  朴 盛弘,兼子幸一: NIRS (Near-Infrared Spectroscopy:光トポグラフィー検査). 精神科治療学,31巻: 30-35,2016.

7)  Iwata M, Ishida H, Kaneko K, Shirayama Y. Learned helplessness activates hippocampal microglia in rats: a potential target for the antidepressant imipramine. Pharmacol Biochem Behav 150‐151:138‐146,2016.

7)  Pu S, Nakagome K, Itakura M, Iwata M, Nagata, Kaneko K. Association of fronto-temporal function with cognitive ability in schizophrenia. Scientific Reports. doi: 10.1038/srep42858, 2017.

                                               文責 兼子 幸一