心理療法室
平成27年度の心理療法室の活動状況を報告致します。
鳥取大学医学部附属病院心理療法室と関連の4病院(養和病院、米子病院、安来第一病院、渡辺病院)は、引き続き統合失調症圏を主な対象とする認知リハビリテーションNeuropsychological Educational Approach to Cognitive Remediation (NEAR)を実践しています。平成27年度の当院でのNEAR参加者は4名と減少傾向にありますが、当院精神科の外来、入院において統合失調症圏の割合が低下傾向にあることを反映しているものと思われます。これに対して、前記の4病院ではほぼ例年と同等の一施設当たり年間7~12名程度の方が参加されています(2度目の参加者を含む)。
NEARの直接的な目標は、教育用コンピュータソフトウェアを用いて、記憶、作業記憶、注意・処理速度、遂行機能等のいわゆる神経認知機能を高めることにあります。他方、NEARの究極的な目標は、日常生活での就労・学業、自立生活、円滑な対人関係等の参加者の社会機能を高めることにあります。これらの目標達成において、参加者はただ受動的に参加するのではなく、課題に取り組むこと自体の楽しさ・意義を見出し、リハビリテーションに対してより能動的に取り組む力となる内発的動機付けを高めることを重視しています。動機付けを高めるには、自分は何かを達成できるという自己効力感、リハビリプログラムの内容選択に関する自己決定、リハビリプログラムに対する期待感が特に大切です。しかし、当事者の方は、こうした内発的動機付けをもつことに困難があります。さらに「どうせ何をやってもうまくいかない」という非機能的信念(dysfunctional belief)に捉われ易い傾向も指摘されています。
統合失調症において、内発的動機付けの障害と非機能的信念の2因子が認知機能と社会機能の関係に影響する介在因子となることが実証されつつあり、認知リハビリテーションを実施するにあたっても、認知機能の改善だけでなく、こうした心理的問題の解決が求められています。NEARは、前述の通り内発的動機付けの向上に取り組むことを意識したプログラムであるとともに、無誤謬学習に基づく自己効力感の向上も重視しており、統合失調症圏の認知リハビリテーションに適した手法であり、ささやかな成功体験を積み重ねることで非機能的信念を軽減することが可能と考えます。心理療法室では今後も認知リハビリテーションの実践と研究の両面から着実な取り組みを続けて参ります。
■平成27年度の業績(発表論文等)
1) Hagiya K, Sumiyoshi T, Kanie A, Pu S, Kaneko K, Mogami T, Ohsima S, Niwa S, Inagaki A, Ikebuchi E,
Kikuchi A, Yamasaki S, Iwata K, Nakagome K,. Facial expression perception correlates with verbal
working memory function in schizophrenia. Psychiatry Clin Neurosci, 68: 773-781, 2015.
2)兼子幸一.統合失調症に対する認知リハビリテーション. 精神科治療学, 30巻:817-822, 2015.
3) 兼子幸一. 統合失調症の認知機能障害の神経生物学的背景.精神医学,57巻:743-752, 2015.
(文責:兼子 幸一)