眼科

当科の平成26年度の総手術件数は2,675件であった。
前年度と同様に手術の内訳でウエイトを占めているのが、白内障関連手術と加齢黄斑変性などに対する硝子体内注射である。当院では一般の眼科が行っている白内障手術症例数も多いことは言うまでもないが、その他の分野における手術も多数行っており、さらに手術以外でも薬物による治療経験は非常に多く、薬剤部との連携により院内にて調剤点眼化をおこなっており、既存の点眼では対応困難な難症例にも対応している。
 当院で行っている各分野の診療内容について概説する。
 現在加齢黄斑変性の治療として主流になっている血管内皮増殖因子(VEGF;Vascular endothelial growth factor)を標的とした治療である抗VEGF抗体注射に対しても、当科では、従来の一泊入院に加え、H25年度より手術室における清潔操作という安全性を維持した日帰り手術の体制を整えたことによって、患者さんのニーズにあわせて入院もしくは日帰りを選択できるようになった。また、抗VEGF療法は加齢黄斑変性などの眼内新生血管抑制以外にも視力低下の原因となる黄斑浮腫に対しても効果があり、黄斑浮腫を引き起こす糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症に対して保険適用が拡大されたため、抗VEGF抗体注射の適用患者はさらに増加しており、今後も白内障手術と同様に大きなウエイトを占めると思われる。
 上記のような薬物治療では治療できない黄斑上膜、黄斑円孔などの外科的な硝子体手術が必要な網膜疾患に対しては、極小切開硝子体手術に対応できるアルコン社のコンステレーション機器を導入することによって、手術による侵襲を少なくし、入院期間の短縮や患者さんの早い社会復帰に貢献している。
 緑内障疾患には、点眼治療では眼圧がコントロールできない患者さんに対して、眼圧を下げるための緑内障手術を積極的に行っており、残存視機能を守ることに非常に貢献している。また、再手術症例などの難症例に対しても数年前から日本にも導入された緑内障チューブシャントを利用し積極的に手術を行っている。
 小児眼科では、一般の眼科では対応が困難である低年齢や知的障害がある患者さんの視力検査に対して、経験豊富な視能訓練士が携わっており、8歳で終了すると言われている視力の発達への妨げになる屈折異常が原因でおこる弱視を防ぐために医師と視能訓練士が連携して眼鏡治療を行っている。また、目の位置がずれる斜視に対しては、全身麻酔下もしくは局所麻酔下での斜視手術やプリズム治療を行っており、特に美容的な劣等感や複視に対して心理的負担を軽減し、患者さんの満足度が高い手術となっている。
 涙道の閉塞によって眼脂や涙がたまるなどの症状を引き起こす涙道疾患に対しては外来にて涙管チューブ挿入術を、そしてその閉塞によって涙嚢の細菌感染がおこる涙嚢炎に対しては当科の耳鼻科との連携にて入院にて涙嚢-鼻腔吻合術を施行しており、強い痛みがでる涙嚢炎の再発を高率に抑え、再発の恐怖を取り除いている。
 山陰地方における角膜移植のセンターを担っている当院での角膜移植においては、従来主流であった全層角膜移植に加えて、角膜内皮細胞を含む深層角膜側のみを移植する角膜内皮移植が注目されているが、当院でもこの角膜内皮移植をH20年度より導入した。角膜内皮移植の利点は、全層移植に比べ、角膜上が無縫合であるため大きな乱視を生じないこと、縫合糸に関連した感染が生じないこと、拒絶反応のリスクを軽減できることにあり,移植後の問題点を軽減するという角膜内皮移植を選択することで患者さんの負担を減らすことへと結びついている。 

また当施設では手術治療以外にも、臨床所見のみでは診断のつきにくい前眼部感染性疾患に対しReal-time PCRを用いた病原体の検出を積極的に行っている。Real-time PCRにより微量のサンプルからも病原体を検出でき、また治療効果の判定にも非常に役立っている。そのため県内のみならず近隣の県より診断・治療に苦慮する前眼部症例が多数紹介されてきており、山陰のみならず中国地方における難治性前眼部感染症治療センター的一面も持っている。

 以上、前眼部から後眼部まで幅広い領域で偏りなく加療を行っているのが当科の特徴ともいえる。以上のように白内障のような基盤的手術のみならず、新規あるいは先端医療の導入も積極的に行っており、山陰における基幹施設としての役割を十分に果たしていると自負している。

 

                                       (文責:上田 麻奈美)