女性診療科群
女性診療科では、周産期、生殖・内分泌および婦人科腫瘍を3本柱として、生命の誕生、美しくも劇的な変化を遂げる「女性の一生涯」を支える診療を行っています。
当院は総合周産期母子医療センターに指定されており、ハイリスク妊婦の外来紹介や緊急の母体搬送に対応しています。母体・胎児部門だけでなく、新生児部門や手術部を含めた関係各科が綿密に連携し、ハイリスク妊婦の適切な周産期管理に努めています。近年、当院の分娩件数は増加傾向にあり、妊産婦のリスク要因を適切に分析し、平成24年7月から助産師外来、平成25年6月からは院内助産を開始しまし。限られた病床数を効率良く使用するため、ローリスク妊婦は紹介元の医療機関での分娩を推奨しています。助産師の職能を最大限に活用し、周産期医療に関する病診連携を推進することにより、鳥取県内唯一の三次周産期医療施設として、ハイリスク妊婦の外来紹介や緊急の母体搬送にいつでも対応できるように努めています。今後は、出生前診断に関する新しい技術を導入し、適切なカウンセリングを実施する体制を構築し、妊娠中の母児の健康管理、養育環境のさらなる向上を目指します。
生殖・内分泌領域では、主に不妊・不育症治療、腹腔鏡手術、子宮内膜症治療などを実施しています。不妊治療においては、働く女性のために午後6時までの時間外診療を含む週3回の専門外来を開設し、一般不妊治療・人工授精から体外受精(顕微授精)・胚移植まで幅広く行っています。習慣流産患者に対する不育症治療においては、低分子ヘパリンによる抗凝固療法を積極的に行い、良好な治療成績を得ています。
子宮筋腫、卵巣腫瘍、子宮内膜症などの婦人科良性疾患に対する手術の多くは、傷が小さく体への負担が少ない腹腔鏡手術により行われており、良性疾患に対する子宮摘出の約9割は腹腔鏡手術で行っています。婦人科としては国内で2番目にロボット支援手術を導入し、先進医療承認を目的とした臨床研究を実施しています。女性の「生活の質:Quality of life(QOL)」を低下させる子宮内膜症は当科の重要なテーマの一つであり、基礎・臨床研究による病態解明に取り組むとともに、薬物療法、腹腔鏡手術、不妊治療からなる集学的治療に努めています。
鳥取県内の婦人科悪性腫瘍の過半数を取り扱う当科は、山陰地域の婦人科がんセンターの役割も担っています。子宮頸癌は子宮がん検診の啓発と普及に伴って、初期病変の割合が増加している反面、がん検診未受診の高齢者進行癌が依然として多いことも重要な課題であります。進行子宮頸癌に対しては、抗癌剤による術前化学療法を行い、手術根治性の改善に努めています。また、若年者頸癌症例に対しては、妊孕性温存を考慮した広汎性子宮頸部摘出術を試みています。子宮体癌および卵巣癌症例は全国的な傾向に同期して漸増しています。手術術式の改良のみならず、抗癌剤化学療法を駆使した集学的治療により、治療成績の改善に努めており、進行卵巣癌症例の予後は全国平均に比較しても良好な成績を得ています。婦人科腫瘍の治療成績の更なる向上を目指して、新たな治療法、治療薬剤を科学的に検討する国内外の臨床試験にも積極的に参加しています。また、婦人科腫瘍術後のQOLを著しく低下させるリンパ浮腫に対しては、2010年11月からがんセンターに開設された「リンパ浮腫外来」で複合治療を積極的に導入し、リンパ浮腫発症予防ならびに症状緩和に努めています。
進行・再発がんの患者さんに対する主な治療である化学療法の副作用を出来るだけ軽減し、徹底した安全管理により、化学療法の多くは外来で行うことが可能になりました。患者さんの個々の事情を考慮しながら、化学療法中でも自宅で普段の生活が送れるように努めています。化学療法の副作用対策は極めて重要な課題であり、当科では手足症候群や口内炎などの副作用対策に関する臨床研究を作成し、全国規模で検討しています。また、当科では「がん」の診断時から、精神的・身体的苦痛や経済的負担に対して「緩和ケア」を積極的に導入し、治療中のQOLを保ちつつ、住み慣れた地域での切れ目ない「抗がん診療」を提供できる体制づくりを目指しています。
患者のニーズに応えるため、平成15年9月から乳腺外来を開設しました。視触診に加え、マンモグラフィーと超音波検査を行い、現在までに13名の乳癌患者を発見しています。
以上、受精から始まり、思春期、成熟期、老年期へと女性のライフサイクルすべてにわたって幅広く診療活動をしており、いずれの分野ともますます専門性を深めています。周辺医療機関との連携をさらに密接にし、大学病院としての使命を果たせるよう努力を続けます。