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第三回 魔法は使えない
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description: 「カニジル」は鳥取県米子市にある「とり大病院」の広報誌です
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鳥取大学医学部附属病院 広報誌 トップ NEWS ラジオ カニジル宣言 特集 連載 鳥大の人々 病院長対談 その他 最新号 バックナンバー 15杯目 14杯目 13杯目 12杯目 11杯目 10杯目 9杯目 8杯目 7杯目 6杯目 5杯目 4杯目 3杯目 2杯目 1杯目 トップ 11杯目 連載 第三回 魔法は使えない 境港在住、駆けだし小説家の独り言 ふみ日記 第三回 魔法は使えない 新人賞を受賞してから、もうすぐ2年になる。その間に私が発表したのは、受賞作の単行本、エッセイ数本、新作の短編が1本。それに対し、ほぼ同時期にデビューした方はすでに数冊、単行本を上梓している。 なぜこれほど差がついているのか。その方の刊行ペースが早いのは言うまでもないが、私の筆が異常に遅いのも、大きな要因の一つだろう。ちなみにどのくらい遅いかというと、たった一行を完成させるのに、平気で数十分はかかるほどだ。まったく何も浮かばないと言うよりは、書いては消し書いては消しを、延々と繰り返している。その結果、下手したら数十分どころか、翌日に持ち越すことさえある。 受賞当時は、まさかここまで書けないなんて思っていなかった。不遜にも、面白い小説を次々生み出す自分を想像していたし、インタビューでもそのように答えていた。 それだけ大見得を切っていたから、1年目はとにかく現実に打ちのめされていた。「もう新作を出せないのでは」と不安になったことは数知れない。だがある一冊の絵本が、弱気になった自分を支えてくれた。 その絵本は、福音館書店刊の『まほうつかいのでし』だ。(残念ながら現在は入手困難) ゲーテの詩および同名の交響曲が基となっており、ディズニー映画「ファンタジア」の中の一編としても知られる。有名な話なのであらすじをご存じの方も多いと思うが、念のため紹介しておく。 ある日魔法使いの弟子は、先生から留守番と水汲みの仕事を言いつけられる。日頃から魔法を試したくてうずうずしていた弟子は、呪文を唱え、ほうきに水汲みを代行させる。ところが弟子は、止める魔法までは知らなかった。当てずっぽうで呪文を唱えてみても効果はなく、たちまち屋敷は水浸しに。苦肉の策でほうきを叩き割ると、1本だったほうきが2本になり、ますます水の量が増えていく。もはや洪水のようになり、もうだめだと観念した瞬間、先生が帰宅し、魔法で水を止めてくれる。その後弟子は、先生にこっぴどく叱られるのであった。(私が読んだものは先生が魔法をかける場面で終わるが、原典では叱られるまでがセットらしい) 最初にこの絵本を読んだのは、たしか5歳くらいのときだ。当時は「できもしないことをするから、痛い目に遭うのは当然だ」とか、冷めた感想しか抱いていなかった。けれど大人になってから--特に、筆が止まって苦しんでいたときに読むと、全然違った。つい、この弟子と自分を重ね合わせてしまったのだ。 洪水で困っている弟子に、創造力が枯渇している自分を投影させるなんて、ちゃんちゃらおかしいかもしれない。だが、特別な力を手に入れたつもりになっている点は、弟子も私もよく似ている。実際は大した力などなく、うろたえる点も。 先生に魔法をかけてもらった瞬間、弟子はいったい何を思ったのだろう。 改めて絵本を読み返すと、彼は、驚いたような、ほっとしたような顔をしていた。 大洪水が一瞬で止まったのだから、驚嘆するのも無理はない。不測の事態に肝を冷やしっぱなしだったから、安堵するのも当然だ。でも「ああよかった、さすがは先生だ」で終わらせてよいのだろうか。 それから弟子がどうなったかは、ゲーテの詩にも絵本にも描かれていない。だが、真面目に修行に取り組むようになったのではないかと、私は思う。あざやかな魔法を目の当たりにし、彼は今まで以上に先生を尊敬したはずだ。先生のような立派な魔法使いになるために、その後は必死で呪文を覚えたり、きちんと言いつけを守ったりしたのだろう。 洪水を止めることはできないが小説家にも、魔法使いみたいな人はたくさんいる。そのような方々は、一日に何十枚も原稿を書けたり、読者の心を掴んで離さないような、すてきな物語を紡げたりするらしい。なんとも羨ましい、夢みたいな能力だ。 だが現実には、魔法使いなど存在しない。次々と本を刊行される方、傑作を世に送り出している方々もきっと、試行錯誤を繰り返し、やっと魔法のような力を手に入れたのだろう。作中に描かれていないだけで、あの魔法使いの先生も、若い頃はたくさん失敗したかもしれない。 作家生活3年目に突入しても、私はそう簡単に変われないだろう。この原稿だって、何度も何度も立ち止まって書いている。今手をつけている短編も、いつまで経っても終わりが見えない。けれど、「自分にはできない」と悲観するのはもうやめた。「魔法」が使えないなら、使えるようになるまでひたすら、修行を積んでいけばいい。 それが1、2年なのか、あるいはもっとかかるのかはわからない。だけどいつか、みなさんに「魔法」をお見せできるその日まで、書いて書いて、書き続けたい。 鈴村 ふみ 1995年、鳥取県米子市生まれ。立命館大学文学部卒業。第33回小説すばる新人賞受賞作「櫓太鼓がきこえる」(集英社)でデビュー。小説家であり、とりだい病院1階のカニジルブックストア店長。 鳥取大学医学部附属病院 広報誌 〒683-8504 鳥取県米子市西町36番地1 鳥取大学医学部附属病院 広報・企画戦略センター内「カニジル」編集部 TEL 0859-38-7039 / FAX 0859-38-6992 E-mail byouin-kouhou@med.tottori-u.ac.jp トップ NEWS ラジオ 特集 連載 最新号 バックナンバー お問い合わせ ©2016 Faculty of Medicine Tottori University. All rights reserved. ...
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