胸部大動脈瘤
胸部大動脈瘤とは、動脈硬化などにより胸部の大動脈が「こぶ状」に膨らむことで、自覚症状はないのですが、破裂すると突然死にいたる大変重篤な疾患です。 現在、国内では開胸下に人工心肺装置を装着して人工血管に取り替える手術が一般的ですが、大手術であり、また脳梗塞、下半身麻痺、肺合併症などの重篤な合併症の危険も高いことが難点です。このため合併症の危険がある場合は手術ができないケースもありました。さらには開胸するために術後の痛みが強いことも欠点でした。
ステントグラフト治療は、片側の太ももの付け根、あるいは側腹部を切開し、カテーテルを用いて、金属を縫い合わせた針金状の人工血管(ステントグラフト)を 動脈瘤の内側に留置することで動脈瘤にふたをすることで、血管破裂を防止する治療法です。この方法だと、人工心肺装置は必要なく治療翌日より食事や歩行が可能で、従来の開胸手術に比べ入院期間が3分の1以下に短縮し、また合併症の危険も少なく患者様の体に負担も少ない最先端の低侵襲治療です。
当院ではこれまでも自作のステントグラフトを使用した同様の血管内手術を行っていましたが、作成するのに手間がかかる難点もあり、既製品のステントグラフトの登場が待たれていました。昨年7月ようやく厚生労働省により既製品の胸部ステントグラフトシステムが認可され国内でも使用可能となりました。しかし、同時に胸部大動脈に対するステントグラフト治療を施行する施設に対しては、厳格な基準がきめられました。本院は2008年11月にすべての基準をクリアし、山陰唯一の胸部ステントグラフト実施施設となりました。
心臓血管外科では年間約170例の心臓手術および約80例の腹部大動脈瘤の治療を行っておりいずれも山陰では最多です。また大動脈瘤に対するステントグラフト治療も山陰地区では最多の実績(2010年は114例)があり、胸部ステントグラフト指導医の在籍する山陰で唯一の施設です。今後も鳥取大学医学部心臓血管外科ではステントグラフト治療にとどまらず、さらにより良い心臓血管疾患の治療を目指していきます。