医療の世界をいかに知る?~賢い患者になろう~ 今回のテーマ「薬」



今回のテーマ「薬」
©中村治

巷にあふれる嘘か本当か区別のつかない医療情報を どこまで信じられるだろうか。 間違った情報を鵜呑みにし、 取り返しのつかない事態になる前に、 とりだい病院の専門家から正しい知識を学ぼう。

※記事中の所属、役職名等は取材当時のものです。

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1.情報リテラシーを高める。 医療に関する情報をいかに得るか。

新聞の広告欄やコンビニなどで目にする週刊誌の見出しは、結構ショッキングなものが多く“単なる読み物”だと思うしかありません。週刊誌は部数を売るために、インターネットはアクセス数を稼ぐためにインパクトを重視しているだろうから仕方がない。正しく理解するより目を引く情報だけが強調されていることも少なくありません。

例えば、脂血異常症や高コレステロール血症の治療に用いられるスタチン系の薬。ある週刊誌には、これを常用すると手足の筋力が落ちる横紋筋融解症という症状が起き、やめたらその進行が止まったと書いてあります。しかしこのような事例は稀。多くの患者さんを対象としたスタチン系薬の臨床研究でも、横紋筋融解症の発症率は1%未満という報告があります。

薬情報の真偽を見極めるには、まず副作用が起きたパーセンテージが深刻な数字なのか知ること。副作用を強調した情報を過度に恐れるのではなく、その治療によって得られるメリットについても総合的に考えなければなりません。さまざまな情報があふれるなかで、偏った情報に振り回されることなく、患者さんやご家族には情報リテラシーを高めていただきたい。

医療者は、患者さん一人ひとりに適した情報を提供しています。疑問を持ったときは、不確かな情報に頼らず、躊躇せず医療者に聞いてください。医療者と情報を共有した上で治療を進めていくことが肝心です。


2.生活習慣病の薬は、基本的に途中でやめられるものではない。

生活習慣病の薬に限らず、薬というのは当然、生体にとっては異物を外から取り込むのでリスク=副作用が全くないとは言えません。常にリスクとベネフィット=効き目のバランスのなかにあります。

インターネットや週刊誌に「○○という薬は副作用が強い」とか「○○を飲むのはやめたほうがいい」と書いてあると、その薬を飲んでいる患者さんは不安になり自己判断でやめてしまうかもしれませんが、それは間違った判断です。やめてすぐ症状が悪化しなくても、時間が経過し、取り返しのつかない状況になってしまうこともあります。

特に、糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病の薬は、基本的にやめられるものはありません。

もちろん、食事療法などの生活習慣の改善で薬を減らすことはできます。それでも必要最小限の薬は服用し続けなければなりません。

正しく薬を飲み続けることに苦痛を感じることは理解しています。そして、薬に対する不安や苦痛を抱えながら治療を継続していると、つい目に入った情報によって服用をためらってしまうこともあるでしょう。

そんなとき、忘れてはいけないことがあります。薬の副作用は、たとえ同じ薬であっても個人差や頻度によって出たり出なかったりするものです。薬の名前と副作用の情報だけでは、それが自分に当てはまるかどうかは分かりません。一人で悩まず「こんなことを聞いたけど、実際はどうですか?」「私に当てはまりますか?」と医師や薬剤師に相談してください。


3.高齢者のお薬事情。それぞれに合わせた服薬のかたち。

高齢になるほど複数の病気を抱え、処方される薬の数が多くなる傾向にあります。そこで気をつけなければならないのが「ポリファーマシー」。必要以上に多くの薬を服用することをこう言います。薬の数が増えるほど、副作用が出る可能性は高くなり、飲み間違いや飲み残しが起こる原因にもつながります。

とはいえ、患者さんやご家族で薬の管理をするのはなかなか大変でしょう。そこで活用してもらいたいのが「かかりつけ薬局」。複数の医療機関に通っても薬をもらうところは一ヶ所にするのです。

その利点は薬の専門家である薬剤師が重複投与や飲み合わせをチェックできること。いつ、どこで、どんな薬が処方されたかを記録する「お薬手帳」も活用しましょう。

ほかにも、多くの薬を飲むことで、薬の成分が体内に残ったり、必要以上に効き過ぎたりするのではないかと、高齢の患者さんやそのご家族から相談を受けることがあります。

高齢になると臓器の機能が落ちるため、薬を分解、排泄する肝臓や腎臓の機能も衰え始めていることは間違いありません。医師や薬剤師はそれを勘案した上で、体内に薬が蓄積しないように検査値を確認しながら投与量を調整しています。

薬はしっかり決められた分を飲むことが前提です。たくさんの薬を一度に飲むことは大変で、飲み間違いや飲み忘れも起こりやすくなります。飲みづらいと感じる場合は、薬剤師に相談しましょう。薬剤師は薬の量や回数を調整してはどうかと医師に処方提案も行なっています。

「かかりつけ薬局」を持つことは安心して治療を進めるために有効です。少しでも不安に思うことは、薬剤師に気軽に相談してください。



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©︎中村 治

4.抗菌薬はウイルスが原因の風邪には効果なし。

まず最初に確認しておかなければならないのは、風邪は疾患名ではないということです。 いわゆる「風邪症候群」といって、ウイルスが原因で鼻水や咳、発熱などの炎症を起こす症状を指します。抗菌薬とは、その名の通り“細菌に対抗する薬”。風邪を引き起こすウイルスは、細菌とは全く別の病原体なので、抗菌薬を飲んでも効き目はありません。

風邪と診断された患者さんが医師に抗生物質や抗菌薬を処方して欲しいと言われることがありますが、先にも述べたように、風邪症候群は、ウイルスが原因なので、抗菌薬を使ったところでよくなりません。

抗菌薬は熱を下げたり、咳を止めたりする薬ではなく、病気の原因となっている細菌を減らす薬。むやみな使用は、腸内細菌を抑制してしまい、腸内細菌叢が乱れて下痢症状を起こすこともあり、気をつけなければなりません。また、抗菌薬はアレルギー反応などの副作用が比較的出やすく、安易に抗菌薬を飲むと副作用も当然起こりやすくなると考えましょう。

とはいえ、風邪だと診断されたにも関わらず抗菌薬が処方されることも。それは、ウイルスによる風邪と細菌が原因の炎症が合併している場合などが考えられます。処方箋を見て疑問に感じたら、ぜひ医師にたずねてください。


5.恐れられているステロイドは自己免疫疾患などに重要な薬。

ステロイド=怖い薬という漠然としたイメージを多くの人が持っているでしょう。残念なことに医療者のなかにも「ステロイドは悪魔の薬だ」と公言する人もいます。さまざまな副作用が出るという側面は否定できませんが、自己免疫疾患などの治療には、ステロイドは非常に重要な薬です。

ステロイドの副作用は、特に中長期的に飲んだり塗ったりする場合に起こることが多く、なかでも重篤なものは、ステロイド性糖尿病や免疫が落ちることで発症するニューモシスチス肺炎などがあります。

私たち医療者は、このような副作用について十分に認識していますので、最初は多い量を処方して徐々に減らすなど、定期的に検査を行い副作用対策をしています。

現在は、ステロイドに代わる免疫抑制剤として、タクロリムスやシクロスポリンという薬もあるので、症状をみながら変更したり、足したりすることでステロイドの量を減らし、副作用を軽減させる工夫を図っています。

医師や薬剤師は、どのような副作用が起こる可能性があるのかを患者さんにきちんと説明します。その上で、やはりステロイドを使用した治療が必要だということをしっかり伝えているはず。それが、リスクとベネフィット(利益)を患者さん自身が判断するための情報提供なのです。


6.新薬に比べ、ジェネリック医薬品が劣るという事実はない。

ここ数年で随分認知されたジェネリック医薬品。ジェネリック医薬品とは、新薬=先発医薬品と同じ有効成分を使っている薬のこと。新薬に比べ、開発費が抑えられるため低価格で提供できるのです。もちろん、効果や安全性が新薬と同等だと確認するための厳しい試験に合格し、国の基準や法律に基づいて製造・販売されています。

新薬に比べてジェネリック医薬品が劣るということはありません。しかし「ジェネリックは効かないのでは?」あるいは「効きが悪いのでは?」という患者さんからの不安の声は、ジェネリックが浸透した現在でも時折耳にするものです。

確かに、全く何もないとは言えません。しかし、伝聞だけでジェネリック医薬品は効き目がないとか副作用が起こると考えるのは間違いです。

新薬からジェネリックに変更して、何かしら副作用が出たとしましょう。しかしその副作用は、ジェネリックを使用したことが原因とは限りません。薬の基本成分は新薬と同じですが、そのなかに含まれているコーティング剤などの添加物の成分が、たまたまその人に合わなかったということもあります。

ジェネリック医薬品は、先発品にはない工夫で飲みやすくなっているものもあり、患者さんのメリットになるケースもあります。経済的負担の軽減につながる重要な選択肢でもあるので、薬剤師は「ジェネリックもありますがどうしますか?」と提示しています。


7.医師と薬剤師のカンケイ ―医薬分業―

医師が処方した薬を薬剤師が調剤し、患者さんにお渡しします。医師が発行した処方箋や検査値を見たり、患者さんに直接話を聞いたりするなかで私たち薬剤師が「この処方は果たしてこの患者さんに適しているだろうか」「前回よりも量が増えているが間違ってはいないか」など、処方に対して疑問に思うことがあります。その時は「疑義照会」といって、処方箋を発行した医師に対し、薬剤名は正しいか、用量・用法は適正か、など処方内容の疑問点や不明点を問い合わせます。医師から回答を受け、きちんと確認がとれるまでは、患者さんにお渡しすることはできません。これは法律で定められた薬剤師の義務。「医薬分業」の利点でもあります。

「医薬分業」とは、院外処方箋を医師に発行してもらい、保険調剤薬局で薬を出すシステムのこと。患者さんからしてみると診察後に病院の窓口で薬がもらえるほうが楽かもしれませんが、医薬分業にすることで、薬の専門家である薬剤師による処方内容のチェックができます。

医師は診療に集中し、薬は薬剤師に任せる。それぞれの専門性を十分に活かし、互いに情報共有しながら患者さんの安全をより効果的に守る。そして、ニーズにあった治療を提供するようにしています。


8.積極的に治療に参加する、賢い患者になろう。

医療現場には、「アドヒアランス」という言葉があります。これは、患者さんが積極的に治療に参加することを意味します。

医師や薬剤師の指示に従わないことで治療が進まず、かえって病状が悪化することもあります。これは医療者にとっては大きな障害であり、患者さんにとって不利益に他なりません。

医療者が「こちらの指示に従え」と一方的に言うことはなくても、患者さんにとっては、専門的なことに意見を言いにくいかもしれません。しかし、治療を必要としているのは患者さんご自身のはず。医師が提供する治療方針に対し、不安や疑問が生じれば、質問していいのです。

服薬についても同じことが言えます。薬は指示通り、指定期間に飲み切ることが大切。その前提で医師も処方し、経過観察を行います。自己判断で薬を飲まず、検査値に改善の兆候がみられなかったり、症状が悪化していたりすれば、不必要に治療法や薬を変更しなくてはなりません。

朝昼晩の1日3回食後に飲む薬を処方されたけれど、昼間は仕事で薬が飲めないなど、ライフスタイルによって指示通りにできない場合もあるでしょう。そんな時は、自己判断で薬を抜いたりせず、医師や薬剤師に相談してみてください。薬の種類によっては1日3回を2回に減らす提案もできるのです。

医師は目の前にいる患者さんの症状、検査値などを総合的にみて、治療方針を決め、薬を処方します。薬剤師も調剤が適しているか、何かしら問題が起こっていないかを聞き、きちんと説明してお渡ししています。ご自身の治療に関心を持ち、積極的に治療に参加するためにも、薬剤師に相談することは、賢い患者への第一歩です。