放射性ヨード内用療法
甲状腺は、ヨウ素を材料として甲状腺ホルモンを産生する臓器です。放射性ヨード内用療法はこの性質を応用した治療で、ガンマ線という放射線を放出する放射性ヨードが甲状腺に取り込まれることで甲状腺組織が破壊され、バセドウ病の寛解をもたらす治療です。60年以上の歴史があります。
治療を行うためには、放射性ヨードが入ったカプセルが内服できることが必要で、治療を効率よく行うために内服前後の最低1週間はヨウ素を極端に制限した食事、抗甲状腺薬の休薬が必要です。また、カプセルを内服して約1週間は周りの人の被曝に注意が必要で、15歳以下のお子さんや妊娠中の方との接触に制限があります。確実に治療するため投与する放射性ヨードの量は多めにすることが多いですので、治療後はバセドウ病が完治するかわりに甲状腺ホルモン剤の内服が生涯必要になります。ただし、抗甲状腺薬に比べれば通院治療の負担ははるかに少なく、血液検査も6ヶ月から1年に1回程度で済むようになります。
この治療は以下のような方にお勧めしています。
- 抗甲状腺薬の内服が、無顆粒球症、重篤な肝障害などの重大な副作用により困難な方
- 手術後に再発してした方
- 抗甲状腺薬休薬後に再発してした方
- 抗甲状腺薬でなかなか治らない方(寛解に至らない方、再燃を繰り返す方)
- 心不全、心房細動、肝疾患、気管支喘息、糖尿病などの慢性基礎疾患の合併があり、バセドウ病を確実に治したい方
- 高齢、基礎疾患、社会的背景により抗甲状腺薬の治療に必要な通院が難しい方。また、確実な寛解を希望する方
- 甲状腺腫が大きく、小さくしたい方
- 抗甲状腺薬、手術での治療を希望しない方
ただし、以下の項目が該当する方はお勧めできません。
- 妊娠中あるいは6ヶ月以内に妊娠の可能性のある方
- 授乳継続を希望する方
- 18歳未満の方
- 活動性の高い重篤なバセドウ病眼症を合併している方あるいは増悪の危険性の高い方
- 甲状腺癌の合併あるいは疑いのある方
- 甲状腺腫が非常に大きい方で、手術可能な方
- 慢性基礎疾患の病状が安定していない方
当院での治療手順
- 初診時
- 放射性ヨード内用療法を行う上で問題はないか、診察や検査を行います。その上で、放射性ヨードを投与する日程について放射線治療科を受診して調整します。
- 治療準備
- 放射線治療科の治療計画(シンチグラフィー、投与日)に合わせてヨード制限食の開始、抗甲状腺薬の休薬の日程を決めます。ヨード制限食については栄養個人指導を受けていただきます。
- 治療
- 治療中のヨード制限や甲状腺機能の管理が可能であれば外来でも実施できますが、病状によっては入院をお勧めしています。クリティカルパスを用いて、効率よく治療できるように配慮しています。
入院用クリティカルパス
投与後の治療
放射性ヨード内服後は、1週間のヨード制限を継続します。本治療はバセドウ病を確実に寛解させることの出来る方法ですが、投与してすぐには良くなりません。特にバセドウ病の活動性が高い方や甲状腺腫の大きい方では、投与3~7日目よりしばらくはお薬による治療を併用していくことが必要です。また甲状腺腫の大きい方は、複数回の治療をしないと治らないことがあります。
甲状腺腫が縮小し、外来での経過観察で甲状腺機能が低下傾向になれば、甲状腺ホルモンの補充療法へ移行します。甲状腺ホルモンの必要量には個人差がありますが、量が一定になれば通院の間隔も3ヶ月に1回程度で良くなります。