病気にかからない、あるいは怪我をしないという人はいません。医療は生活に切り離せないものです。それにもかかわらず、病院を敬遠したり、垣根が高いと感じる人も少なくありません。そこで、医療の世界を「いかに知ってもらうか」→「いかに知る」→「カニジル」となりました。
もちろん、とりだい病院のある鳥取県の名産品、〝蟹のだし(味噌)汁〟にも掛けています。蟹汁のように、皆さまに愛される存在でありたいという思いも込めました。 「カニジル」が第一にこだわるのは「ファクト」です。
医療に関して、不正確な情報が世の中には溢れています。短く、分かりやすい言葉は人々の心に突き刺さりやすい。しかし、現実はそう簡単ではありません。分かりやすくするため、大切なものを多くそぎ落としています。
あまり知られていませんが、医療は、科学的に証明されていることとそうでないことを完全に二分できない世界です。その時点でのファクト=エビデンスを重んじていても、そのファクト自体がひっくり返ることもあり得る。大切なのは、愚直に取材し、確かな文献に当たり、真摯に考える——それが我々の姿勢です。IT(情報技術)、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の発達により、我々が手にする情報は爆発的に増えました。その中から、いかに正確な情報を選び取ることができるか。生命の危機にも直結する医学では、その力が特に必要になってきます。カニジルはそのお手伝いをしたいと考えています。
とりだい病院は、医療機関であると同時に、職員、患者を合わせて1日の滞留人口は約4千人から5千人。この地域でもっとも人が集まる場所です。
原田省・前病院長は、〈すぐれた文化を展開〉し、〈人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持〉する可能性を秘めているという意味で、病院は「社会的共通資本」であると定義しました。この「社会的共通資本」は、米子市出身の世界的な経済学者、宇沢弘文氏が提唱した言葉です。宇沢氏は、著書の中で社会的共通資本を〈一人ひとりの人間的尊厳を守り、魂の自立を支え、市民の基本的権利を最大限に維持するために不可欠な役割を果たすもの〉とも書いています。
2023年4月から原田氏の後を継いだ武中篤病院長の下で、とりだい病院サポーター制度「地域と共に創る自慢のOur Hospital」を始めています。武中病院長は「社会的共通資本である国立大学病院に、住民の方々にボランティアとして関わり、喜び、やり甲斐を見つけていただくこと。そしてサポーター同士、職員、学生たちと新たなコミュニティを創ってもらいたい」と語ります。そして、とりだい病院が「Our Hospital」(アワ・ホスピタル)、つまり「私たちの自慢の病院」となることが最終目標である、と。こうしたとりだい病院の挑戦、考えを、この『カニジル』および『カニジルラジオ』(BSS山陰放送ラジオで毎週土曜日ひる0時25分からオンエアー)で伝えていきます。
とりだい病院のある米子市を含めた山陰地方は、「過疎」「超高齢化社会」という日本が抱える問題が凝縮されています。一方、人との温かいつながり、自然など、都会にはない豊かさがある。問題を解決しつつ、豊かさをどう維持していくか——。先んじて未来の問題を解決できる場所なのです。