新規医療推進センター 産官学連携コーディネーター
才木直史
「人生を変えた一冊、というよりは人生をこれから変える一冊です」
こう語るのは、新規医療推進センターに所属する産官学連携コーディネーターの才木直史だ。彼が選んだ一冊は『小が大に勝つ逆転経営社長のランチェスター戦略』である。
才木はコーディネーターとして医療機器開発人材育成事業「共学講座」、医療従事者のニーズを企業へ橋渡しし、開発・製品化の取り組み——医工連携を行なっている。
「共学講座を通して、中小企業の社長や技術者の皆さんと一緒にもの作りをしているのですが、開発した製品が世に出ても、流通がうまくいかない。そこにもんもんと悩んでいました」
そんな時に出会ったのが、この一冊だった。きっかけは共学講座で招いた元オリンパス社長 高山修一氏の講演だ。医療機器開発市場において、オリンパスは世界最先端の消化器内視鏡製品を産み出し続け、世界トップシェアを誇っている。しかし高山氏は講演の中で、若手時代によく上司から「お前のランチェスター戦略はどうなっているんだ」という指導をされたと語った。
「内視鏡の雄のオリンパスですら、ランチェスター戦略というものを常に重視していたというのをうかがって、そんなに有益なものなのかと思ったんです」
ランチェスター戦略の始まりは、軍事戦略モデルである。弱者が強者に勝つため、つまり中小企業が大企業に勝ち抜くための戦略である。才木が手に取ったこの本には、課題を解決するために企業がランチェスター戦略をどう使ったかという事例が数多く掲載されている。「中小企業にとっては何もかも弱者だと思いがちなのですが、実はそうではない。セグメントを分けて考えると、自分たちが強者になれる場所がある。それを探して、強みとして伸ばしていく。例えば最近製品化したもので、気管切開の患者さんの処置を行う際に使用する置き型のフェイスシールドがある」
自立して設置できるものだ。
「フェイスシールドは数多くあるけれど、置き型っていうのはなかった。その分野ではオンリーワンなんです。シェアナンバーワンです。」と笑う。「でもそういうふうに開発した製品の価値を、どのセグメントに置くかということが、すごく大事だと気づいたんです」
とりだい病院に入る前、才木はメーカーでエネファーム(家庭用燃料電池)の開発に携わっていた。製品を世の中に出すという泥臭い部分を数多く経験してきた彼は、企業側の戸惑いや困り事が手に取るようにわかる。だからこそ製品化の先までサポートしたいという思いが強いという。
「この本に出会って、企業側が、ニーズを出してくださった医療従事者にとってもwin-winになるような戦略を、どのように立てていけばいいのか、ということが少し見えてきたところです。人生というか仕事の仕方を変える大きなきっかけになりましたね」
実際のところ、医工連携はバラ色の話ばかりではない。しかし、才木は関わる人たちが正当に幸せになれるよう、この本での気づきをもとに挑戦を続けていく。