「ノート活用」「仕事量の可視化」「モチベーション・コントロール」ほか とり大医師の㊙「仕事術」

文・大川真紀
イラスト・矢倉 麻祐子


仕事術

大学病院の医師は忙しい! ご存じのとおり大学病院では診療のほかに教育、研究も行なっています。医師として専門性を高めるためのインプット、アウトプットの時間はもちろん、教授や准教授など管理職になれば医局のマネジメント、院内の多くの会議への参加、膨大な事務書類の提出も必要になってきます。これだけのタスクを同時進行で回していくのには、何か確立されたコツがあるのではないでしょうか。2人の医師にお話をお聞きしました。

タスク管理は「先を見通すこと」「ノート活用」

「自分が忘れてしまったがために、あの案件明日までだったってバタバタするのが嫌なんですよ」というのは、歯科口腔外科の小谷勇教授だ。

小谷教授によると、まずはやるべき仕事=タスクを可視化すること——。

使用するのは、見開き2ページに1週間の予定が書き込める仕様の市販のノート。小谷流は、見開きの右ページ端に、タスクを箇条書きに書き込みます。

「大事な要件、やらなければいけないこと、それが例えば3ヶ月先のものでも書いておきます。そして、すこしでも手をつけたら三角の印をつけます。完全に終わったタスクは線で消してしまいます。三角印のものはまだ完結してないので、来週のページに引き継ぎます」

つまり、タスクの進捗状況の可視化です。

「金曜日帰るときに来週のページに未完結のタスクと、新しいタスクを書いておくんです」

1週間のタイムスケジュールを決めていくと、空いている時間帯が見えてくる。

「その部分を〇で囲みます。〇の大きさで時間の空き具合が視覚的に分かりやすくなります。次に右端に箇条書きしているタスクの中からできそうなボリュームのものを選び、空いているここでやろうって入れ込んでいくんです」

空き時間とタスクのボリュームを把握することで、効率よく時間を使うことが可能となるとは小谷教授の言葉。

何ヶ月も先の予定をずっと書き続けるのには、忘れないためのほかに、もうひとつの効果もあるのだそう。

「同じ案件を書き続けていくと、まだ大丈夫か、いやそろそろだ、やらなければ、という段階を踏んで、気持ちの変化が起きてきます。頭の中にその案件がうっすら残っていくので、ふとしたときに良いアイデアが浮かぶこともあります」

日頃からタスクを意識し続けることが、柔軟な対応と新たな発想につながっていくのですね。



仕事術
気分転換も仕事術のうち!

とはいえ、タスク管理しても、キャパオーバーでどんどん溜まっていく、なんてことありますよね……。

「やるからにはその仕事に興味を持って、好きになることが重要です。これは患者さんを診ることも、研究でも教育でも、すべて共通すると思います」

モチベーションの重要性を強調するのは、消化器内科の八島一夫准教授。

「自分が目指すゴールをはっきりと見据えること。例えばぼくは、患者さんの満足度を上げるためにはどうすればよいかをひとつのゴールにしています」

ゴールを明確化すれば、おのずと行動の方向性も決まってくるというわけですね。ふむふむ。それでも苦手なものに興味を持つのは難しいと思うのですが。

「そういうときは、自分の気持ちとしてはちょっと下向きになる仕事だけども、全体を考えるとよい方向に進む案件だ。ならば少しずつでも手を付けてやってみる、と考えるのがコツです」

さらに、気分転換も仕事術のうち、と八島准教授はいいます。

「あんまりくよくよして引きずらないこと。自分でリラックスする何かを見つけてすること。例えば走ることが好きだったら走る、テニスが趣味ならテニスをする。私は音楽を聴きながら、夕方、皆生の海辺を1日1時間ぐらい歩くようにしています」

小谷教授も仕事に丁寧に向き合うこと、客観視の大切さを意識していることを教えてくれました。

「雑にしたらいつかしっぺ返しが来ると思って、自分に言い聞かせています。そして、ものごとを決める、あるいは重要なことに取り掛かるときは、もう一人の自分を置きます。言葉を変えて言えば、自分を疑うようにしています。可能ならば時間をあけて白紙にした状態のもう一人の自分の目で見るんです。そうすることで、また違う見方、気づいていなかったことが見つかることもあります。もう一人の自分がやっぱり同じ方向性だったら、間違いない」

原稿を書くのが遅い、できる医師から仕事術を学んでこいと、編集長にいつも言われている私ですが、まずは皆生の海岸を散歩して気分転換することから始めます。