Tottori Breath vol.6 『言葉の力』——カニジルラジオ、始めました。

文・結城 豊弘


Tottori Breath

東京の私立大学病院で働く友人の医師がこんな事を口にした。

「患者さんとの向き合いが、流れ作業のようになってしまう。本当はちゃんと向き合いたいが忙しさで余裕が無い。これでは絶対いけない」

彼によれば新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、日々の診察に加えコロナへの危機管理や感染対策、不安相談など、それまで全くなかった仕事がいくつも増えたという。そのうえ、リモートワークでの会議やステイホームでストレスも蓄積。患者さんたちとの向き合い方も「これまでの対応や説明で本当にいいのか」と自問自答を続け、言いようのない違和感を覚えていると語った。普段は仕事への誇りと医療を熱く語り、率先して現場に駆けつける熱血漢である友の肩の落ち方に同情を禁じ得なかった。

コロナ禍の中、人との関わりや仕事、出会いや別れ、今までの日常が形を変えてしまった。経済や観光、教育、医療などの社会インフラだけでなく、毎日のマスク装着や出口の見えない現状が、知らず知らずに大きなストレスとしてのしかかる。

そんな時代だからこそ「言葉の力」や「語りかけ」の大切さを痛感する。

特に医療の現場で「語りかけ」は重要だ。治療の経過を丁寧に説明するための語りかけや、患者さんへの声かけと説明。思いやりのある会話。そんな医師・看護師と患者さんの会話から、病状や体の異変を知るシグナルを手に入れることもある。優しい言葉や語りかけは、気持ちをリラックスさせ病状を好転させ互いの信頼関係を築く。患者の気持ちに寄り添い理解を深めることによってこそ、安心できる医療を実現できるのではないか。



ラジオは、生の声に飢えている人の味方

本誌『カニジル』は「言葉の力」と「語りかけ」の力に着目し、山陰放送で「カニジルラジオ」という新しいラジオ番組をスタートした。

先日、私の大切な師匠の一人で伝説のラジオ番組「パックインミュージック」(TBSラジオ・1967年〜82年まで放送された深夜放送番組)でパーソナリティを務めた桝井論平さんとラジオの力について話をしてきた。名司会者の生島ヒロシさんや久米宏さんを育てた人物だ。

「ラジオはパーソナルメディア。時代を映す風俗的面も持つ。わざわざ早く寝て深夜ラジオを聴く若者が、ラジオのスイッチを入れて深夜放送ブームが生まれた。茶の間からテレビに締め出されたラジオと、若者が結びついた。ラジオはリラックスして何でもしゃべれる。生の声に飢えている人の味方。古いメディアが一周回って一番新しいのかも」

そうラジオの「語る力」を説く。

カニジルラジオには、論平さんら大先輩のラジオ魂も流れる。もちろん、本誌・田崎健太編集長の熱い思い入れと意気込みが番組のエンジンであることは言うまでもない。

とりだい病院の医師や看護師、ゲストの意外な経験や医療への思いを田崎さんの軽妙洒脱なインタビューが切っていく。分かりにくい医療情報が、まるで、みんなが食べやすい大きさの美味しいパンのようにリスナーに届く。担当する木野村尚子アナウンサーは地元島根県出身。毎週土曜日の昼12時25分〜55分放送。公式YouTubeとradikoでも配信。本誌『カニジル』とともに、田崎さんの豊富な引きだしと多彩なゲスト、医療の話を是非ラジオでも聞いていただきたい。大切な「言葉の力」とともに。



結城豊弘
讀賣テレビ放送株式会社 報道局兼制作局 チーフプロデューサー
1962年鳥取県境港市生まれ。読売テレビ報道局兼制作局チーフプロデューサー。「そこまで言って委員会NP」「ウェークアップ!ぷらす」等の取材・番組制作を担当。とりだい病院特別顧問と本誌スーパーバイザーを務める。鳥取県アドバイザリースタッフ。境港市観光協会会長に就任。