Tottori Breath vol.5 経済・観光とコロナ克服は二者択一ではない。

文・結城 豊弘


Tottori Breath

新型コロナウイルスのニュースが毎日流れる日常。ニュース取材の現場に身を置きながら、ある程度、長期の戦いになる事は覚悟をしていた。しかし、一方で日本の医療レベルの高さやウイルスの特性を勘案し、夏場には、少し落ち着きを取り戻すのではないかとも感じていた。実際、緊急事態宣言の解除後、徐々に飲食店に客足も戻り、ステイホームと三密回避、マスクと消毒の徹底の成果もあって感染者は低下。経済も少しずつ回り始めていた。

しかし、その後、夜の街でのクラスター発生と感染経路不明者が激増。東京都や大阪府のみならず、感染防止への取り組みの緩みからか山陰両県や地方でも感染者が増え、心配な状況となっている。やはり、この感染症の克服は短期間では難しく、一筋縄ではいかない。

「感染リスクを少なくし、その範囲の中で経済を回すべき。経済破綻が本格化する」という意見と「高齢者の重症化リスクや医療崩壊の危機を考え、行動制限や自粛をもっと強化するべき」という考えがぶつかり合う。どちらの意見も私は正しいと思うし、答えはそう簡単ではない。

経済的に見れば、2008年9月、リーマンショク(グローバル金融危機)が日本を襲った翌年の09年7月には、失業率は5.5%と戦後最高水準に達した。今年、日本の経済悪化状況はこの時を上回る可能性が高く、265万人が全国で職を失うという予測もある(野村総研調べ)。

私は今年6月から境港市観光協会会長に就任した。境港市を代表する観光スポット、水木しげるロードには、現在177体のキャラクター・ブロンズ像が並ぶ。観光客入り込み数は年間300万人以上。山陰観光の優等生だった水木しげるロードもコロナ禍の中で閑古鳥が鳴く。シャッターを閉めている店も目立つ。しかし、観光協会は市と商店街の協力を仰ぎ、消毒や検温、マスクの徹底、抗菌テープなどの対策で、7月20日より「妖怪スタンプラリー」の再開を決断した。



大切なのはプロの経験と目線でギリギリその間を狙うこと

ジェットコースターを後ろ向きに走らせ、V字回復を成功させた、元USJ執行役員で現在、株式会社『刀』CEO森岡毅さんは「コロナ禍に打ち勝つためには、ゼロか百かではなく、プロとして力を尽し、その間の解を見つけていくべきだ」と語る。「ゼロか百か」という極端な選択ではなく、プロの経験と目線でギリギリその間を狙いつつ、結果を出していくべきと説明する。「守るべきは何か。思考停止に陥らず感染を抑えこみ、同時に経済を回していく。経済も病気の克服も、どちらも命に直接影響があるのだから」と。

とりだい病院の命を守る役割や仕事も同じ考えの上に立つ。コロナとの戦いを続けながら、他の多くの病気とも向き合わなければならない。大切な病院の使命がそこにある。最前線の医療者の戦いにもどうか目を向け、よく知ってほしい。

もう一度言う。「二者択一」では今はない。この困難を乗り越えるには、思考停止に陥らず、知恵を結集し冷静にバランスを取り続けること。その判断の源は、正しい知識と見極める力であろう。本誌「カニジル」の題名に込められたもう一つの想い「如何に知るか」に通じる考えだ。



結城豊弘
讀賣テレビ放送株式会社 報道局兼制作局 チーフプロデューサー
1962年鳥取県境港市生まれ。読売テレビ報道局兼制作局チーフプロデューサー。「そこまで言って委員会NP」「ウェークアップ!ぷらす」等の取材・番組制作を担当。とりだい病院特別顧問と本誌スーパーバイザーを務める。鳥取県アドバイザリースタッフ。今年6月、境港市観光協会会長に就任。