“教授回診”と聞いて多くの人が頭に浮かべるのは、ドラマ『白い巨塔』のオープニングシーンでしょうか。教授を先頭に医師たちが列をなして廊下を歩く様子は印象的で、ドラマでは、教授回診が教授の権威の象徴として描かれています。
大学病院に入院したら、こうした教授回診が見られるかもと期待する人、あるいは不安に思う人もいるかもしれません。実際のところ、ドラマのような回診が本当に行なわれているのか、そしてその目的は何か、教授にインタビューしてみました。
山本一博教授(循環器・内分泌代謝内科)は、教授回診の目的についてこう話します。「治療の方向がうまくいっているかどうか、カルテ上の検査データと主治医の説明だけでは患者さんの状態が十分にわからないことがある。年齢は同じでも健康状態は人それぞれなので、直接診てみないとわからない。治療の方針がその患者さんに適しているのか、あるいは変更すべきかを判断するためにも回診の役割は大きい」
患者さん一人ひとりの病状の把握や治療の方向性は、診療科で開かれるカンファレンス(会議)で話し合われます。そのほか主治医や病棟責任者から相談を受け、ディスカッションすることもよくあるそうです。
「カルテを見るのと患者さんのそばに行って実際に様子を見るのではやっぱり違う。主治医以外の医師が週に一度でも患者さんの顔を見ることで、複数でチェックすることができます」
ただ、患者さん側からすると、普段あまり接することのない“教授”が医師を引き連れて回診に来ることはストレスにならないか聞いてみると「大人数ではなく、原則、僕と病棟責任者、それと研修医の5、6人で回る。説明やディスカッションもベッドサイドでは行わず、扉を閉めて廊下でするなど、患者さんの負担にならないように配慮しています」
実際、回診の様子を見てみると、白い巨塔のイメージとはまったく異なり、列をなして廊下を歩くこともなく、日常の病棟の風景と何ら変わらないものでした。
患者さんの中には、学生が見学することに抵抗を感じる人がいるとよく聞きます。その点について尋ねてみると、「回診に学生が加わる場合、基本的に病室には入れません。例えば、聴診器で診察した時に心臓の雑音が聴こえることがある。そんな時は患者さんの許可が得られれば、勉強のため学生にも胸の音を聴かせてもらうことはあります」との答えが返ってきた。患者さんが負担に感じるなら、遠慮なく断っても問題ないとのことでした。
取材の日、山本教授と病棟責任者の柳原清孝医師、そこに主治医とともにそれぞれ担当の患者さんを受け持つ研修医3人が緊張の面持ちで加わっていました。
「病室の前で自分の担当患者さんについて手短にプレゼンテーションしてもらう。先輩医師に指示されたことをただこなすのではなく、なぜその診断に至ったか、なぜその治療方針が立てられているか、彼らがきちんと理解しているかを確認する機会でもあるんです」
研修医が山本教授にプレゼンしている様子をそばで見ていると、緊張でうまく説明できなかったり、「その症状を改善するためにどうすればいいと思う?」という質問にすぐに答えが出ないという場面も。
回診は大学病院独特のものではなく、どこの病院でも行なっているそうです。それは海外の病院でも同様とのこと。教授回診は、決して儀式めいたものではなく、第一に患者さんのため、そして若い医師を育てるために行なっています。