うまい話には裏がある擬似(ニセ)医療」に気をつけろ



うまい話には裏がある

アメリカ初代大統領のジョージ・ワシントンの死因は「瀉血」ー擬似医療だとされている。そして今も擬似医療は人を惑わし続けている。
厄介なのは欺こうとする人たちが科学的根拠(エビデンス)のある情報に嘘を巧みに混ぜていることだ。
擬似医療ーニセ医療をどう見抜けばいいのか。とりだい病院の医療者に緊急取材してきた。



嘘とエビデンスのある事実を「サンドイッチ」

いささか旧聞に属するが、昨秋に「血液クレンジング」という耳慣れない“治療法”が話題になった。これは患者の血液を採取、そこに「医療用オゾンガス」を混入し、再び身体に戻すというものだ。

芸能人はインスタグラムなどのSNSで“治療”を受けたと投稿。血液クレンジングを行う“クリニック”では、癌や白血病、肝炎、はたまたアンチエイジングやダイエットにも効果があると謳っている。これに対して医師たちが「効果がない」と指摘、国会でも取り上げられた。

もちろん、血液クレンジングに科学的根拠はない。それどころか感染症に罹患する危険性の伴う“反医療”行為である。

この血液クレンジングのほか、古くはホメオパシー、免疫療法、あるいはデトックス、マイナスイオン、コラーゲン摂取などといった“医療もどき”は世の中に広まっている。あくまでも善意の民間療法もあれば、高額の治療費を貪り取る悪質クリニックもある。人はなぜこうした科学的根拠のない擬似医療ーインチキ医療に惹きつけられるのだろうか。

鳥取大学医学部附属病院 呼吸器内科の阪本智宏助教は擬似医療に手を焼いている医師の1人である。

「ぼくたちがよく治療しているのは、Ⅳ期の肺がんの患者さんです。つまり1番進行している肺がんです。まずはⅣ期の肺がんですと伝えます。その後、言葉遣いには気をつけながも、根治はもう望めない状態であることを理解してもらった上で、延命と(症状の)緩和を目的とした、いわゆる抗がん剤を含む薬の治療をすることになります。そして、患者と話し合って、具体的にどのように治療を進めて行くのかを決めます」

ところが、あるとき患者からこんな風に相談を受けた。

ーこんなものを見つけました、ここを紹介してほしい。

擬似医療を行うクリニックだった。

「選ぶ権利は患者さん側にあるので、『こんなのは嘘っぱちです』とは言いづらい。とはいえ目を覚ましてほしいので、散々オブラートに包んだ話をした後、『あなたが私の親だったら殴っても止める』と強い言葉を使うこともあります。それでも行きたいというのならば止めることはできないので、手紙(紹介状)は書きます」

ことに複雑にしているのは、そんななかに医師免許を持った人間が運営しているクリニックがあることだ。

阪本はそうしたクリニックの「宣伝文句」はずる賢いと嘆く。

「“これでガンが治ります”と書いてあると流石に嘘っぽいから、そうはしない。嘘とエビデンスのある事実をサンドイッチしている。ここまでは合っているけど、さらっと嘘が入ってくる。擬似医療には裏付けとなるデータがないのだとよく言われますよね。それに対して、データはある、論文はこれだけ出ていると広告を打っている。でも金を払えば論文を出してくれるところがある。ぼくたちは“ハゲタカジャーナル”と呼んでいます」

退官間近の有名大学教授の看板を利用することもある。

「データがないっていうけれど、こんな有名な大学の先生が論文を書いている。(阪本)先生はどれだけ知っているんだって言われると、この(擬似医療の)治療法については全く知りませんと答えるしかない」

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