大学病院の謎 第3回 医者の話が分からない!!



大学病院の謎_01

不満に思う人は10%未満、しかし・・・

「『医者の話が分からない』ってそうですかね。ちゃんと丁寧に時間をかけて話していると思いますよ」

医者側からはこんな声が聞こえてくる。

病院では年に一度「患者満足度調査」を行なっている。患者の声を病院運営に反映していくことが目的だ。とりだい病院でも毎年実施しており、そのなかには「医師」についての項目がある。“(患者の)話を聞いてくれる”“言葉遣い”“病状の説明”“身だしなみ”など7項目について満足度をたずねている。その結果は約 70%が満足で、不満に思う人の割合は10%にも満たない。数字だけを見ると、患者さんは医者とのコミュニケーションに困ってはいないように見える。しかし…。

満足度調査には出てこない患者の本音

「医者の話が分からないと思ったことはありますか? 分からないのはなぜだと思いますか?」を通院中の患者さんにインタビューしてみた。分からないと思う一番の理由は、「知識量に差があるから」。医者にとっては○○病の患者さんの一人でも、患者本人は人生で初めての病気であり、経験がなく、すべてが初耳。いくら医者がゆっくり丁寧に話そうとしても入口からつまずいているのである。

続いて多かったのは、「病名を告げられてから受け入れるのに時間がかかること」。「異常なし」や「大丈夫ですよ」の一言を期待していたのに、病名のあとにすぐ治療の説明が始まる。

頭は真っ白。医者の言葉が入る余地はない。


医者の話は誰に対してなのか

知識量の差は、専門性が高い分野においてはどうしても存在する。医者は、大学で医学部に入学してから、医学の世界にどっぷり漬かり膨大な医学知識を学ぶ。そして、医者となってから、知識を患者さんの診療で活かすことになる。しかし、最初は余裕がない。患者さんに分かりやすい説明をできるようになるまでには、長い年月がかかる。ある医者によると、始めのうちは、患者さんへの病状説明を自分に向かって話しているようなこともあったという。つまり、認められた所見(異常)と学んだ医学知識を照らし合わせて確認していたのだ。経験値が上がると知識と実践がうまくつながるようになる。そこでようやく患者側の受け取り方にも気を配り、理解度に応じた話ができるようになるものだ。医者自身も、最初は医学の専門用語を操るのに精一杯なのだ。

分かりやすく伝えることの難しさ

病院内には聞いたこともない専門用語がごろごろしている。生理検査や検体検査、低侵襲治療、RIやMRIなどの横文字、さらには病名の正式名称も非常に難解だ。言い換えることができるときもあるが、間違って理解される恐れもあり、そのまま伝えることも多い。患者さんはどう受け止めているのだろうか?「専門用語は分からなくて困る」という人もいれば、「テレビでもよく耳にするし、今はスマホやパソコンで調べられる時代。通院後に自分で調べています」という人も。また、患者さんは、専門用語だけではなく、よく使うフレーズに困ることもある。

▶︎夜8時以降は、絶食ですのでご飯は食べないでください。
→ご飯以外、パンならいいと思い、食べてしまった

▶︎この薬は食間に飲んでください。
→食事と食事の間ではなく、食べている最中に薬を飲んだ

▶︎しばらく様子を見ましょう。なにかあったら来てください。
→「しばらく」の期間や「なにかあったら」がどんな症状を指すか分からない

「医者の話が分からない」を解決するには、医者側は患者に理解してもらうための「時間と対話力」、患者側は分からないことを「聞き返す勇気」が必要。医者に聞きづらいときは、看護師や周りの医療スタッフに声をかけてほしい。私たちもこの「カニジル」を通して、医者と患者が分かりあえるお手伝いをしていきたい。