構成・中原 由依子
毎日の診療のなかで、患者さんと交わした一言が、ずっと心に残り、ふとした瞬間に思い出されることがある。
それは感謝や労い、励ましの言葉であったり、叱責やショックを受けた一言であったりもする。
けれど、そのどれもが、医療者の考え方や行動、患者さんへの向き合い方を変化させ、今の自分を作っている。
そんな珠玉の「言葉」を、とりだい病院の医療関係者に聞きました。

- 「私みたいにうるさい親に、
やさしく対応してくれてありがとう。
私だったら絶対無理やわ」
黒﨑雅道さん
副病院長・脳神経外科 教授
episode
研修医の頃、受け持った患者さんの母親が、子どもの病状に関してすごく勉強されており、勉強不足の私に対して文句を言われたり、私の間違いに容赦無く鋭いつっこみを入れてこられました。けれどもその母親の態度は、わが子の病気が少しでも良くなってほしいという愛情の強さの表れ。そのとき言われたいろいろな言葉が、その後の私の医者としての態度にいい影響を与えてくれました。
- 「よろしくお願いします」
森田理恵さん
副病院長・看護部長
episode
手術部で喉頭の全摘手術を担当した際、患者さんが麻酔で眠る前に発した一言。手術後には声を失うことを思うと、その「最後の声」を聞いたのは家族ではなく自分たち医療者だったと気づき、ハッとしました。この経験を通して、手術部看護師としてより真摯に患者さんと向き合っていかなければと思いました。
- 「とりだい病院はもっと冷たいと思っていたけど、
ここは温かくて心安まる。ここでよかった」
小澤晋作さん
副看護師長
episode
入院中の患者さんの奥様からかけられた言葉で、患者さんだけでなく家族も不安を抱えていることを改めて実感しました。以来、面会時には家族にも積極的に声をかけ、少しでも安心して過ごしてもらえるよう心がけています。忙しいときこそこの言葉を思い出し、患者さんや家族に丁寧に向き合うようにしています。
- 「先生は病気しか診てない」
坂本照尚さん
消化器・小児外科 准教授
episode
25年前、研修医として大腸がんの患者さんを担当しました。手術は成功し順調に退院されましたが、退院時に「先生は病気しか診ていなかった。私の心に寄り添ってほしかった」と書かれた手紙をいただきました。当時は反発する気持ちもありましたが、その言葉は、心に残り続けました。
その後、多くの患者さんや家族との関わりのなかで、その言葉は本当に大切なことは何なのかを見つける道しるべになってくれました。今の私はどう映りますか?あの頃の私から変われたでしょうか? もしも、もう一度会うことができるなら聞いてみたいです。
- 「私の病気治るの?」
奥野啓介さん
小児科 講師
episode
難治性小児がんの10歳の女の子から言われた言葉です。彼女は痛みに耐えながら、放射線治療を受けていました。「治すために頑張ろう」と声をかけた自分でしたが、今も何をどう話せばよかったのか答えが見つかりません。選ぶ言葉の問題もありますが、表情や言い方など非言語でのコミュニケーションこそ医師として大切だと感じた出来事でした。
- 「かわいい!」
松原真紀さん
看護師
episode
緊急帝王切開で運ばれてきた患者さんが全身麻酔下で手術を受けましたが、残念ながらそのお子さんは亡くなりました。麻酔から覚めて、ご主人とともに亡くなったお子さんと対面した患者さんが満面の笑みで「かわいい!」と。この言葉は私にとって、命の尊さや他者の存在の大切さを知るきっかけとなりました。
- 「先生」
澤田賢悟さん
看護師
episode
看護師2~3年目のころ、男性看護師がまだ少なく、患者さんから、「先生」と呼ばれることがよくありました。ある患者さんにいつもと同じように"先生じゃなくて看護師"と訂正したところ、「あなたは看護の先生なんだから先生でいいんだよ」と言われ、その言葉に胸を打たれました。医師だけでなく"看護の先生"として誇りを持って働こうと思い、看護師としての自信とモチベーションにつながりました。
- 患者さんからいただいた手紙
「若槻さんからのメッセージがあり
心にしみました」
その2年後
「あなたのような素晴らしい
看護師に巡り会えたことに
再度感謝して筆を置きます」
若槻祐太さん
看護師
episode
担当した患者さんへメッセージカードを書いて渡したところ、後日心のこもったお返事のお手紙が届き、大切に手帳に挟んで持ち歩いていました。2年後、偶然その患者さんの手術を再び担当し、そのお手紙を今も持ち歩いていることを伝えて笑い合いました。再度メッセージカードを渡すと、また温かいお返事をいただきました。勤務中は今も常に僕の左ポケットに入っている大切な言葉です。
- 「僕はもう生きられないから言うけど、
あなたは看護師を続けて。これから、
どんどん良い看護師を育てて下さい」
中井梨華さん
看護師
episode
末期がんの患者さんが転院される際にかけてくださった言葉です。当院での治療が長く、看護師のこともよく見ておられた方でした。看護師という仕事は過酷で続けるのが難しいと感じることもありますが、自信をもって続けられているのはこの言葉があったからだと思います。
- 「先生に会って人生が変わった」
伊澤 正一郎さん
内分泌代謝内科 講師
episode
これまでうまくいっていなかった病気の治療が劇的によくなったときに、言っていただいた最高級の誉め言葉だと思います。
- 「心強いです」
和田 崇さん
理学療法士
episode
担当した患者さんのリハビリを終えたときに言われた一言です。どのような理学療法士になっていくべきかという私なりの指針になる言葉でした。
- 「上手に採ってくれてありがとう。
次回もあなたに採血をお願いしたいわ、いいかしら?」
橋本祐樹さん
臨床検査技師
episode
臨床検査技師として検体検査を担当していた私は、採血室での業務を通じて、ある乳腺外科の患者さんと出会いました。たまたま難しい採血が一度で成功したことがきっかけで、以後数年間、その方の採血を担当させていただくようになり、毎回「今日もありがとう」と笑顔で声をかけてくださいました。最期は採血が難しくなっても「失敗しても大丈夫」と励ましてくださり、亡くなられたあと、偶然葬儀の看板でその方の名前を見つけました。最後まで担当させていただいた感謝とともに、「検体の先には患者さんがいる」という気持ちを忘れず、これからも患者さんに必要とされる検査技師でありたいと強く思いました。
- 「前垣さんお久しぶりです。
今度、会いに行っても
いいですか?」
前垣義弘さん
脳神経小児科 教授
episode
医学部1年生のときに出会ったA君は、軽度知的障がいを伴う自閉スペクトラム症のある友人です。現在60歳で、年に数回、突然電話がかかってきます。自閉症特性の強いA君ですが、地元企業に勤め、趣味のドライブやマラソンを楽しみながら自立して充実した生活を送っています。A君を通して、障がい者は支援される存在にとどまらず、自分の力で役割を果たし人生を楽しむことができるのだと実感しています。私は外来で発達障がいの子どもたちと関わる中で、彼のように自分らしく生きる大人になってほしいといつも願っています。
- 「・・・・・(握手)」
野島菜都美さん
看護師
episode
入院中から対応が難しかった患者さんを担当していたときのことです。発声ができず筆談も拒否され、叱責や測定拒否が続き、精神的に辛い日々でした。ところが退院の日、初めて笑顔で握手を求められ、「自分を少し認めてくれたのかもしれない」と感じました。その瞬間、患者さんにも感謝の思いがあったこと、そして自分が入院期間の場面だけで「この人はこういう人」と決めつけていたことに気づきました。私たちの関わりは目に見える形で返ってこなくても、きっと伝わっている何かはあるんだと、自分が信じる看護を続けていく大切さを実感した体験でした。
- 「家に帰れるかな。
まだやりたいことがある」
安岡晶子さん
看護師
episode
新人の頃、終末期の患者さんを担当したとき、普段寡黙なその方がつぶやいた一言が心に深く残りました。外出を望まれていたのに叶えられないまま亡くなられたことを今でも後悔しています。その経験は「患者さんも看護師も後悔しない看護を目指す」という、私の看護観の一部になっています。