Tottori Breath 大学病院の今そこにある「危機」



Tottori Breath

 2025年10月27日、 国立大学病院長会議の大鳥精司会長(千葉大学医学部附属病院長)が行なった会見は、衝撃の内容だった。

全国の大学病院の経営不振は深刻、このままでは大学病院の機能が維持できないと病院の窮状を訴えたのだ。

病院の経営赤字が大学本体の経営をも圧迫。大学もろとも倒産の危機に瀕している。大鳥氏の勤務する医学部附属病院は大学予算の約65%。病院の赤字が大学そのもののキャッシュを食い潰しており、このままでは、職員の給与が払えなくなり大学も倒産するという。

 2023年の国立大学病院の赤字病院は16だった。24年には25病院に拡大。25年度の赤字病院は約8割に上ると報告された。

「沈むように全国の大学病院の赤字が拡大している。良い治療を求めて、高額医薬品や治療を行わなければならない患者が大学病院に集中。結果、医療費率は上昇。例えば、100万円稼ぐのに43万円の費用が掛かっている。残りで人件費も施設費もすべて払う。儲かるわけがない」と大鳥会長は嘆息した。

 大学病院の役割は多岐にわたる。

 人材育成、そして医療研究や創薬を担う。外来患者を診て、重篤な患者には高度先進医療を行う。地域の病院には医師・看護師を派遣し、医療の意識啓蒙のための教育も行う。町の雇用や経済にも大きく寄与。何より病気になった患者の救急搬送先としてなくてはならない存在。一帯の医療の「最後の砦」なのだ。

 ところが、大学病院であっても経営が逼迫すれば、医療機器の更新ができない。高度医療、最新医療はできなくなる。医師や看護師、スタッフも補充できない。病院から優秀な医師が去り、医師の地域病院への医師派遣が滞る。病院の少ない地方や過疎地では、その影響は計り知れない。地域医療の崩壊である。

 働き方改革も大切である。物価上昇に合わせて適正な昇給も行わねばならない。もともと国立病院の給与は、私立大学附属病院、市中病院の約2分の1と言われている。技術の習得や社会的な意味、研究の充実、高度な医療知見の獲得を目指して医師・看護師・スタッフになった人がほとんどだ。いわば、患者のためになりたいという意識とモチベーションで支えられている。

 会見を聞いていて、現行制度では臨床、教育、研究すべてを大学病院が背負う体制は限界がきていると私は感じた。研究の推進と臨床は二律背反。研究を頑張らないと新しい成果は生まれず論文は書けない。当然臨床(診察・治療)はできない。逆に臨床に汗すれば、役職も上がらなければ学位も取れないということも起こりうる。病院運営は厚労省、そして研究は文科省管轄という構図も問題を複雑化している。

 国の抜本的な医療改革と保険制度の見直し、行政支援は待ったなし、なのだ。

 では、我々のとりだい病院はどうか—。現時点では「黒字」の健全経営を維持している全国でも数少ない大学病院である。だが、武中篤病院長の危機感は強い。高度医療、地域の医療の最後の砦を継続するため、エコノミー、エコロジーを考える必要があると「医療のエコ」を合言葉に掲げ、医師、看護師、スタッフ病院が一丸となっている。

院内の会議では「いかに無駄を省くか」「医療の質や患者サービスは落とさない。しかし、どうしたら質を落とさず省力化できるか」を議論、実践している。その根底にあるのは地域に貢献するという使命と誇り。人に愛してもらう、人に貢献する、そして適材適所。この「人にフォーカス」をした、とりだい病院の独自マネジメントが黒字の最大要因だと分析する。しかし薄氷を履む状況はとりだい病院も同じ。地域の医療を守るために、皆さんからのエールをお願いしたい。それこそがとりだい病院の一番大きな「やる気」と「誇り」につながるから。



結城豊弘
1962年鳥取県境港市生まれ。テレビプロデューサー。鳥取大学理事と本誌スーパーバイザーを務める。鳥取県アドバイザリースタッフ。境港観光協会会長。