私はもともと腎臓内科医でしたが、1つの臓器を専門的に診て突き詰めていくよりも、人間と向き合い、体も心もバランスよく診たいと思い、総合診療医を目指しました。
総合診療はプライマリ・ケアとも言います。病気やケガをした時に最初に受ける医療のことで、患者さんの心身の状態をトータルに診て、初期治療や相談、必要に応じて各専門医への紹介を行うなど、幅広い対応が求められる分野です。
そんな総合診療医の立場として、新病院は地域に開かれ、誰もがふらっと立ち寄れるような病院で、住民と病院職員や医学生が交流できる場や機能がほしい。
私は以前、医療従事者と地域の方が一緒にお茶を飲みながら、いろんなテーマについて話し合う「対話カフェ」という活動をしていました。そういうものを病院の中でやれるといいと思います。
意外と医学生は「リアルな患者さん」と関わる機会って少ない。実習が始まるのは5年生からで、4年生までは座学が中心。気軽に本物の患者さんと話せる場があれば、医学生には学びやモチベーションにもなりますし、地域医療への興味にもつながる。その運営もみんなでやるという形がいいと思います。
対話という意味では、「環境デザイン」も大事です。とりだい病院は文化発信に力を入れていますが、もっと本格的にデザイナーを入れて“病院らしくない”空間や、患者さんやスタッフが参加型で行うアートや文化的な仕掛けを作っていく。病気とは関係なくても、そのために病院へ行く人が増えるでしょう。気がつけば、そこでは病気を持った人も混ざって、自分の体験を自然に語れたりすることができるのです。
また私の専門、プライマリケアの分野で言うならば、在宅医療などが進み「脱・病院化」という流れが進んでいます。とりだい病院は、ここ米子において、いわゆる「病気を治す場所」から、もっと広い意味で「命に関わる」中核という価値を地域に示していくことが大切。
世界保健機関(WHO)の「健康都市」概念を発展させた「コンパッション・シティ」が注目されています。コンパッション・シティとは、単に医療や介護を提供するだけでなく、死、看取り、終末期医療を経験する人々を地域社会全体で支え合うコミュニティや取組みです。今、多くの人が「死」について考える機会が少ない。語る場も学ぶ場もない。大学病院の中では、死から目を背けず、むしろ教育として扱う。「死の準備教育」や「エンディングノート」などを通じて、医療従事者が住民や医学生と一緒に学んでいく–そういう姿があっていいと思うんです。
これまでも、とりだい病院は地域に開かれた画期的な取組みを行なってきました。新病院では、そうした機能をさらにアップデートできるよう、私もお手伝いしたいと思っています。
鳥取大学医学部地域医療学講座 准教授
孫 大輔
2000年東京大学医学部卒業。2011年家庭医療専門医を取得。2020年に東京から鳥取県大山町に移住。2024年から現職。地域医療活動を行うにあたり、映画制作や多数の著作など、多彩な活動を展開しています。