いまさら聞けない国民病の正体
放っておくと失明の危機? 「ダイアベティス」に改名?
糖尿病の最新事情を知る

取材・文 西村隆平


「糖尿病」は、メディアに取り上げられることも多く、 一般によく知られている病名だと言える。 しかし、病名を知っているからといって、 その病気について正しく理解できているとは限らない。
「尿に糖が混じる病気」「恐ろしい合併症につながる病気」「生活のだらしない人がなる病気」「太った人がなる病気」「甘いものを食べてはいけない病気」。
このような誤ったイメージや知識不足から生まれる差別と偏見は、スティグマ(聖痕)と呼ばれ、糖尿病のある人を悩ませている。
糖尿病とはどのような病気なのか、 とりだい病院で治療の最前線に立つ医師に話を聞いた。


糖尿病は「尿」ではなく
「インスリン」の病気

糖尿病患者が著しく増えている。

「日本人のだいたい5人に1人が、糖尿病かその予備軍だと考えられています。成人も子どもも含めての話なので、成人だけに限れば4人に1人。糖尿病有病率の変化と見事に比例しているのが、コンビニの店舗数、外食産業の市場規模、一人世帯の割合、そして自動車保有台数などの増加。24時間365日、いつでも好きなものを食べて飲めるようになったこと、そして運動不足が原因だと思われます」

糖尿病増加の背景にはライフスタイルの変化があると指摘するのは、とりだい病院内分泌代謝内科の医師であり、糖尿病専門医の資格を持つ大倉 毅だ。

厚生労働省が2019年に行なった調査によると、糖尿病患者が1000万人、予備軍を含めると2000万人と推計している。この数字は年間15万人ペースで増えており、今も継続していると思われる。

そもそも、『糖尿病』とは何か――。

インスリンという膵臓でつくられるホルモンがある。私たちの身体は僅かな血糖値の変動を察知すると、膵臓からインスリンを分泌して血糖値を一定に保っている。糖尿病とは、インスリン不足、あるいはインスリンに対して身体の反応が鈍くなる「インスリン抵抗性」が原因で起こる。血液中のブドウ糖濃度が高くなると、血管内に水が引き込まれる。それが大量の尿として身体から排泄される。体内から水分がなくなるため、異常に喉が渇く――。

過剰となったブドウ糖が尿として排泄されるため、日本では長く糖尿病と呼ばれてきた。

「私たちが食べた物は胃で消化されるとブドウ糖という小さな粒になり、小腸から吸収されて血管に入ります。そしてこのブドウ糖が、筋肉などでエネルギーとして利用、あるいは脂肪に取り込まれて身体に蓄えられる。血液中に含まれるブドウ糖の濃度を血糖値と言い、インスリンの分泌でコントロールされています」

糖尿病にはいくつかタイプがある。よく知られているのが、1型糖尿病と2型糖尿病である。生活習慣病であり、糖尿病の9割を占めるのが2型である。2型糖尿病は遺伝的な要因、食べ過ぎや運動不足などの環境要因で起きる。

1型糖尿病は、自分の細胞に対する免疫反応(自己免疫)が過剰になって、膵臓でインスリンの合成と分泌を行うβ細胞を破壊、その結果としてインスリン分泌不全と高血糖症が引き起こされる。

「最近は検査の質が向上したことによって、2型の患者さんとして治療されていた方の中に平均して1割ほど、1型の方が含まれていることが分かってきました。1型と2型では治療方法が違うので、そういう方を注意深く見つけていくことが必要です」

糖尿病は、治療をせずに放っておくと、合併症を起こしてしまう。神経障害、網膜症(眼)、腎症の3つを糖尿病の3大合併症と言い、その順番で起こることから「し・め・じ」と覚えることができる。失明の原因の第3位は糖尿病である。

その他、足の組織が腐ってしまう壊疽、脳卒中や狭心症の発作、がんや認知症などのリスクが増加することもある。糖尿病に罹患すると平均寿命は5年から10年短くなると言われている。

「尿糖が出ても糖尿病ではない病気の方もいますし、〈尿〉の付く病名のイメージが悪いとも言われています。そのため糖尿病の英語表記をカタカナにした『ダイアベティス』への改名が検討されています」

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