今から30年以上前になります。ぼくが研修医になった年に、今使われている病棟が完成、入院患者さんの引越しを手伝った思い出があります。古い病棟があった場所に、今度は新しい病院を建設するということで、医師として一つの時代を生きたという実感があって感慨深いです。
新病院建設は、人口減少、超高齢化が進むこの地域の未来を左右する「100年の計」であることは間違いありません。しかし、同時に2029年着工という現実の話でもあるため、近未来のとりだい病院像を明確に見据えなければなりません。大学病院を始めとした大きな病院にありがちな問題、患者さんの待ち時間が長かったり、検査など移動の導線が分かりにくいといったことをまず解決して、もっと便利で親切な病院にしていきたい。
世の中の流れとして、新病院はAI(人工知能)やDX(デジタルトランスフォーメーション)を医療に取り入れることになるでしょう。ただ、人間の温かみは残さなくてはいけない。
とりだい病院に来たみなさんが口を揃えるのが、看護師さんが優しいということ。看護部の力、ホスピタリティの部分は大きな強みです。とりだい病院は医師や看護師さんとの垣根が低い。職員はみんな、仕事はもちろんですが、とりだいフェスのようなイベントなどにも積極的で、どんどんアイディアを出してくれます。広報・企画戦略センター長としていつも感謝しています。人と人の距離が近いという部分はこれかも大事にしていきたい。
人口が減少していくこの地域で高度医療を提供し続けていくためには、新病院は働く医師、患者さんを集められる病院にしなければいけない。都市圏の病院との差別化を図って、その魅力を上手に発信していく。日本でトップレベルの治療ができる高度救命救急センター、最新のロボット手術の研修を行う『鳥取低侵襲・ロボット手術研修開発センター』――通称『ToRSC』(トルシー)が看板になるでしょう。
この地域は、とりだい病院を中心とした医療都市として生き残っていくしかない。そのためには、個性のある診療科を増やしていくことも必要でしょう。とりだい病院の脳神経小児科は、日本に2か所しかない珍しい診療科です。専門的な治療を学びたい医師、治療を受けたい患者さんが、全国のいろんなところから集まってくる。こうした特色ある診療科を1つでも2つでも増やして、もっと人が集まる病院にする。
そして何よりもまずは職員を大切にして、やりがいをもって働きやすい病院にする。それが、より大きな社会的貢献ができる病院作りにつながると思います。
鳥取大学医学部附属病院
病院長特別補佐
黒﨑雅道
1990年鳥取大学医学部卒業。独ハンブルグ大学医学部脳神経外科研究員などを経て、2016年鳥取大学医学部脳神経外科学教授。2018年病院長特別補佐に就任。2022年4月から広報・企画戦略センター長を兼務。