iPhoneやiPadを世に送り出したアップル社を作ったのはスティーブ・ウォズニアックとスティーブ・ジョブズ。1976年、サンフランスシコ郊外の小ガレージで手作りパソコンとともに産声を上げた。
ジョブズが主導した革命的パソコン「Macintosh」が同社から84年に発表される。現在のパソコンに通じるマウスやGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェイス)を導入。アイコンと呼ばれる画面のマークをクリックするだけでプログラミングが立ち上がり、絵が描けワープロにもなる。当時パソコンは一部のマニアや研究者のもの。難しいマシン語やプログラミング用語を覚えないと動かせなかった。それがマニュアルを読まなくてもクリックすれば自由自在に操れたのだった。
ぼくはリンゴマークに憧れ新入社員時の給与とボーナスで購入、パソコン通信やゲームのとりこになった。
ジョブスの徹底したこだわりと予算度外視の経営ぶりは株主や重役から嫌われ、彼は解雇されてしまう。別会社を立ち上げるが倒産の危機。そこで、ある会社を買収した。それがディズニー映画「トイ・ストーリー」を産んだピクサーだった。それから彼の逆転劇が始まる。
OS・ウインドウズが世界中で売れ、アップルは潰れる寸前と囁かれた97年ジョブズは、同社CEOに給与1ドルで復帰。iMacの大成功やiPhoneの成功を導き出す。会社は息を吹き返した。そのジョブズの残した言葉に「ハングリーであれ。愚か者であれ」(「Stay hungry, Stay foolish」)がある。スタンフォード大での卒業生へのスピーチ。現状に満足しないで常に飢えていろ小賢しくなるな。ぼくの座右の銘だ。
さて、2019年9月とりだい病院では、日本初の取り組みとして、外来患者が待ち時間を有効活用するための患者呼び出しアプリ「とりりんりん」を独自開発した。最初は使いにくい、自分のスマホにアプリを入れるハードルが高い。そもそもスマホが無いとお叱りをいただいた。高齢患者も多く運用は難航した。
—外来待ち時間が長いという声が多い。平均67分。なんとかしたい。
当時の原田 省病院長と武中 篤副病院長(現病院長)の要望を受け普及キャンペーンに力を入れた。各診療科で待たなくても順番がくれば電子音で教えてくれる。待ち時間は雑誌を読める。次回の予約表示などの便利な基本機能が徐々に浸透。医師や看護師、スタッフも普及に努力。今では外来患者の2人に1人が「とりりんりん」をスマホに入れ外来診察を受けていただいている。
その「とりりんりん」が、昨年末に劇的に進化した。デザインを一新し、スマホに慣れていない人も使いやすく分かりやすい。新機能として、デジタル問診があり、項目も事前にスマホに入力。気になる病気の知識も動画で確認できる。
診察券がなくても画面に、バーコード診察券が表示される。診察後の支払いも事前にクレジットカードを登録しておけば、「医療費後払いサービス」で会計窓口に並ばずに病院から帰ることが可能。地域や行政情報も見られる。お得な店のクーポン券も表示。
今後は博愛病院、米子医療センター、山陰労災病院でも「シン・とりりんりん」は利用が可能になる。マイナンバーカードから生成されるIDを、「とりりんりん」に登録すれば、連携し自分の検査結果やお薬情報を見られるマイカルテ機能が使えるようになる。レンタルスマホも用意してある。分かりやすい病院の案内や本日の診察内容。診察呼び出し機能や雑誌・漫画読書機能もさらに充実。しかし、まだまだ足らないところがあるはずだ。ジョブズの言葉を胸に、常にバージョンアップしていく患者ファーストの「シン・とりりんりん」でありたいと思う。開発者のひとりとして。
結城豊弘
1962年鳥取県境港市生まれ。テレビプロデューサー。とりだい病院特別顧問と本誌スーパーバイザーを務める。鳥取県アドバイザリースタッフ。境港観光協会会長。