Tottori Breath とりだいフェス2024の大きな可能性



Tottori Breath

「ここ本当に病院なの」

「普段はね、患者さんやお医者さんでいっぱいなんだよ」

特設ステージを見つめる親子の会話が聞こえる。子どもの素朴な疑問の声に目を細める武中 篤とりだい病院長。普段なら白衣の医師や看護師、スタッフ、そして、診察や会計を待つ患者さんらが静かに座る病院外来ロビー。この日は、子ども達の歓声や拍手であふれかえった。 

とりだい病院の患者さん、かつて通院された方もいた。病院に足を踏み入れたことのない人はもちろん、病院で働く医師や看護師、スタッフらも今日はお母さんやお父さん、友達同士の顔をしていた。

6月16日日曜日、とりだい病院では、日本初の試みとなる医療とエンタメを融合させた「とりだいフェス2024」が初開催。その楽しい雰囲気は6ページからのフォトルポルタージュでも伝わるはず。

休日の病院を最新医療の体験や分かりやすく病院を知ってもらい、踊って笑う。そんな学びの遊び場として市民に開放。大勢の家族連れやカップルらが多彩な催しを楽しんだ。

そもそもフェスとは、アメリカで頻繁に開催され若者を中心に人気を博したロックやジャズの野外イベントの事。そのフェスティバルの略称がフェス、である。

音楽好きのカニジル編集長の田崎健太さんが音楽フェスをヒントに企画、共同プロデューサーにとりだい病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科分野教授の藤原和典さん。病院内から集まった有志の医師・看護師・スタッフらが手弁当で実施にこぎつけた。

もちろんその奥にいるのは、武中病院長だ。彼はオープニングで「地域の皆さんにとりだい病院をもっと知っていただき、病院のファンになっていただく。そんなきっかけになれば嬉しい」と挨拶した。「とりだいサポーター」のボランティアの方たちもイベント運営に汗をしてくれた。

まずびっくりしたのは、手術室で行われた手術支援ロボットの見学ツアーの予約が30分で埋まってしまったこと。〝簡易バージョン〟にも長蛇の列ができた。実際に手術室の前でガウンに着替え、ロボットの体感や写真もとれるとあって大人気。「最新の医療機器への関心がこんなに高いなんて驚いた」と藤原教授は目を丸くしていた。

その他、子ども達が白衣姿で医師になりきりエコーや内視鏡に触れることのできる「とりザニア」、電動車椅子の体験、皆生温泉から運ばれた足湯にマッサージ、美食キッチンカーと盛りだくさん。院内の名物本屋さん・カニジルブックストアも大賑わいだった。

なかでも人気だったのが、中庭で行われた漫才師「ダイノジ」のキッズディスコ。大谷 ノブ彦さんがDJで盛り上げ、大地洋輔さんのエアギターが炸裂。子どもも大人も軽快なリズムに合わせてダンスを楽しんだ。

盛り上げてくれた大地さんは「病院でこんなイベントができるとは思わなかった。患者さんも病気が吹き飛ぶみたいと話してくれた。音楽や笑いの力を改めて感じました」と汗を光らせる。ダンスの真ん中には、満面の笑みで踊る、武中病院長の姿もあった。

外来ロビーのメインステージには、音楽芸人の「こまつ」と女性診療科の小松宏彰講師が兄弟登場。小松医師のすべり気味の司会とトランペットとキーボードを同時演奏する超絶プレー。輝きのある美しいメロディーが心を捉え、なかには涙を浮かべる観客もいた。医学部学生らによる室内交響楽やコーラスが外来ロビーの高い天井に響き、欧州の聖堂で聞いているような趣だった。

病院を知ってもらい、活用してもらう。高度医療の砦、医学の最先端基地だからこそ、とりだい病院は地域との密なつながりを大切にしなければならない。大きな可能性を秘めたこの〝フェス〟が継続的に行われることを望む。この日訪れた約4000人の市民もそう言っているように感じた。



結城豊弘
1962年鳥取県境港市生まれ。テレビプロデューサー。とりだい病院特別顧問と本誌スーパーバイザーを務める。鳥取県アドバイザリースタッフ。境港観光協会会長。