とりだい病院女子の ぶっちゃけ覆面座談会 「ここだけの話でお願いします!」

取材・構成 西村隆平 取材協力 井野寿音 写真 中村治


ここだけの話

 医師は近年、女性が増えたとはいえ、まだまだ〝男社会〟。
なかなか表で大声で言えない不満、怒り、女性ならではの悩みを
〝覆面〟で赤裸々に語ってもらいました。
話題は育児から今年4月に導入された医師の働き方改革まで――
なかなか終わりませんでした(汗)※発言は幾分脚色しています。

ここだけの話
「実家が近いかどうか
というのが一番大きい」

F えー、私たちにこんな場を与えちゃって、カニジルさんが病院長たちから怒られませんか? マジでぶっちゃけちゃいますよ(笑い)。

G (手を振りながら)Fちゃん、そんなこと考えなくていいよ。まず何からはじめようか。

S やはり育児のことかなー。私、この病院に入職したとき、ちょうど妊娠中だったんです。そうしたら入職1年目は育休とれないという制度だったことに気がついた。

G えー、それ大変じゃないですか?

S そう、だから産後2ヵ月で復帰しました(苦笑い)。

F 私の場合は育休をとる資格はあったんだけれど、上司から「産休明けに復帰できる?」っていう風に言われた(笑い)。だから家族と相談して一人目が5ヵ月、二人目は3ヵ月、三人目は2ヵ月で復帰した。

G だんだん短くなっている……。

F うちの科では私の上に育児をしながら働いているという女性が数えるほどしかいなかった。今もだけれど、当時もすごく忙しくて一人でも抜けると困る状態。だから外の(大学病院以外の市中)病院に出ていくと戻ってこない人が多かったな(遠い目)。

G 私は結婚していないし、子どももいないので実感わかないんです。そして、医局には私以外に女性がいない。先輩の男性医師が子どもが熱を出したから早退させてくださいっていうのを見ていると、仕事と家庭を両立するのは難しいんだろうなと。

F 実家が近いかどうかというのが一番大きい。私は母に相談して助けてもらう体制を組みました。母のサポートがなかったら医者として働けなかった。

G さすが‼ やはり近所に母親がいると頼りになりますよね。旦那さんは?

F もちろん、夫も協力してくれましたよ。私の仕事は夜中に緊急呼び出しがあるんです。だから、そのときは夫に子どもを預けて出かけました。授乳は夫にミルクを作ってもらって対応してもらいました。

S 私の場合は「俺が子どもの面倒をみるから」って、夫が育休をとってくれました。一人目のときは8ヵ月、二人目は1年。

F えー、それすごい。うちは育休とるのは無理って言われたけど。とはいえ、そもそも育児は母親だけじゃないから、二人でやるのが当然なんだけどね。

G 私、地元がこっちじゃないし、親に預けることもできない。ただ、とりだい病院すごく気に入っているんです。お二人の話を聞いていると、ちょっと不安になってきた。今のところ地元に帰る気はなくて、ここで働き続けたいんですが……。

S 私の診療科では、子どもを育てながら働くという前例がなかったので、(とりだい病院の)『ワークライフバランス支援センター』に相談しました。そうしたらすごく親身になって話を聞いてくださった。今は私のときよりも病院全体が育児に理解がある。なので、なんとかなると思うよ。



「お母さん、また来てね」って
言われたことも
ここだけの話

F 他の大学病院と比べると、とりだい病院は女性が働きやすい環境ですよね。院内に保育園があるし、病児保育室もある。あとうちの科は女性が多いから、周りが理解してくれている。働き方について融通を利かせてくれたので、大変ではあったけど、そこまで困るということはなかった。

S 私も同じ。最初の子どもを産んだ直後、当直(夜から翌朝までの泊まりの勤務)をしなくてもいいって優遇してくれました。ただ、私は経験を積みたかったので、「働かせてください」って、当直を増やしてもらったんです(笑い)。

G さすが!

S (手を上げて)あっ、言いたいこと思い出しました。当直室が、男女一緒なんです。もちろん毎日、掃除が入ってシーツなどを交換してもらっている。それでも嫌だっていう女の人はいるよね。

G 院内には女性専用の当直室もあるけど、わざわざ予約しないといけないのがちょっと不便かも。

F 私はここで当直はしていないんですけど、確かに育児中は厳しいかも。オンコール(勤務時間以外の呼び出し)ならば、家で子どもを見ながら、緊急のときに行けばいい。でも当直で一晩いなくなると、夜ご飯から朝ご飯、幼稚園や小学校の準備まで全部、任せることになる。周囲の協力が不可欠かな。

G いくら働きやすいと言っても、育児となるとやっぱり家族のサポートなしでは厳しいですもんね。

S うちは当直ばっかりしてたもんだから、子どもが1歳で「当直」って言葉を覚えちゃった。家を出るときに「お母さん当直?」って聞かれたり、「お母さん、また来てね」って言われたりして。

G それは大変! ふつうお父さんが言われるやつだよね(笑い)。

F 子どもと一緒にいたいのはもちろんなんだけど、医者ってそれと同じくらい経験を積んだり勉強したいっていう気持ちが強いんだよね。ずっと家にいると、やっぱり働きたくなってきちゃう。

S 肉体的にハードだと思われてしまう面もあるけど、私たちも無理せずにできるところまでしかやらない。反対に精神的に追い詰められるみたいな、外からのプレッシャーとかあるほうがきついよね。それはこの病院では少ない気がする。

F 相談すればできるかぎり配慮してくれる雰囲気はあるよね。私は朝の(医師、看護師が集まり患者の状態、治療方針を確認する)カンファレンスは免除してもらってるよ。住んでるところがちょっと遠いっていうこともあって、子どもを幼稚園に送ったりしてるととても間に合わないから。

G すごい! かなり融通を利かせてくれるんですね。

S 風通しといえば、うちは教授回診の時も大名行列って感じじゃなくて、学生をいちばん前に行かすくらいだからね。それで若手が、「私はこう思います」って教授や准教授にどんどん意見や質問を投げかけてる。困ったことが全然ないわけじゃないけど、必ずちゃんと見てて救ってくれる人もいるんだよね。医師だけじゃなくて、看護師さんだったり周りにいるいろんな人たちがね。

G 山陰の人は性格が穏やかっていうのがあるかもしれないけど、私も今すごくのびのび働けてます。うちの科は女医が私一人ですけど、それで困ることってないかもしれない。



〝自己研鑽〟と捉えるか
〝労働〟と捉えるか――
それが難しい
ここだけの話

F お二人に聞きたいんですけど、医師の長時間労働が問題になって今回の働き方改革が始まったわけだけど、これで状況がよくなると思う?

S 現時点ではまだ分からないけど、良くなってほしい。長時間労働の改善はしなきゃいけない。ただ私たちが自主的に、患者さんのために残ってしまう時間とかもあるよね。

G 分かります。強制されるわけではないのに、休みの日に患者さんが気になって様子を見に来たりすることもある。

S 大学病院は教育研究機関でもあるから、新しい治療の勉強が必須。医師に限らず社会人ならばそうだと思うんだけれど、時間外に勉強しないとついていけない。知識の習得や技能の向上を図るために行う〝自己研鑽〟と、仕事として認められる〝労働〟との境界がどうしても曖昧になりがち。

F そこ、難しいよね。この制度のポイントをいくつか挙げるとしたら、時間外労働や連続勤務時間の上限が定められたのと、勤務間のインターバル(終業時刻から次の始業時刻までの休息時間)が新たに義務化されたことかな。

G 最近は早く帰るようにって、上司からすごく言われるようになってきましたよね。これまでも気を付けるようにとは言われてたけど、絶対に月45時間を超えたらダメっていうことはなかったな。

F 時間内にすべてを調整するとなるとかなり大変だよね。人手不足っていうこともあるし、まだ戸惑いや不安がある。

Sドクターに関して言うと、大学の給料って、どうしても市中の病院に比べて安い。外に出た医師がなかなか大学に戻らないって部分もあると思うんだよね。あと(山陰の)外から来た学生がここに残らないで、卒業したら自分の地元に帰っちゃう。そっちの方が環境が煌びやかで、かつ病院が多くて給料も高いとなれば帰っちゃうよね。

G 私は山陰好きですけどね。

S ありがとう!(泣き)

G でも確かに、それが人手不足の原因の一つではありますよね。

F うちの科は上の先生の方針で、これまでも働き方を見直そうって雰囲気はあった。当直明けはちゃんと帰って休まないといけないとか、子どもの行事にも率先して出られるようにしようとか。それは男女関係なく、同じように家庭の時間を大事にしようっていうことで。

G そこで男性から不満が出ちゃうと、職場としては結局うまくいかないもんね。

F うちは女性が多いから、どうしても男性が頑張らないといけないところが多くて負担になってる部分があるからね。でも子育てや家事が、仕事するより楽してるってわけでは全然ないんだけど。その辺を理解して気遣ってくれる男性って、おそらく家庭でちゃんと子育てに参加してるんだろうなと勝手に思ってる。

S 逆に「楽でいいよね」みたいに言ってくる人はね(苦笑い)。

F そうそう! 男性も女性も、きちっとお休みするっていうことが一番大事だと思うんだよね。その上でどう仕事を回していくのかっていうのがこの働き方改革のテーマなんじゃないかな。

S 男性も不公平だと感じないようにしていかないと、結局は女性にとっても働きやすい職場ではなくなっちゃうからね。

G これから結婚や出産があるかもしれない身としては、ぜひこの改革が成功して安心して働き続けられる職場になってほしいな。