冬は脳卒中に気をつけたほうがいい――、
こんな言葉を聞いたことがあるひとも多いのではないだろうか。
この脳卒中とは病名ではなく、医学的には脳血管障害を指す。
脳血管障害には3種類あり、脳の血管が詰まる「脳梗塞」と
脳の血管が破れる「脳出血」、脳動脈瘤が破裂して起こる
「くも膜下出血」がある。
今回は脳梗塞、脳出血そしてその原因となる不整脈、
気をつけるべき生活習慣について、
鳥取大学医学部附属病院の二人の医師に話を聞いた。
とりだい病院脳神経内科医師の河瀬真也は「脳の血管が詰まると、そこから先へ血液が送られず細胞が壊れてしまいます」と脳梗塞のメカニズムを説明する。
その結果、意識障害や半身麻痺、認知機能の低下といった症状が現れる。では、脳の血管はどのようにして詰まってしまうのだろうか。
「脳梗塞の原因の一つは、動脈硬化に由来します。動脈硬化とは、全身に酸素や栄養素を運ぶ血管(動脈)が加齢により弾力を失い、硬くなった状態のことです。正常な血管は弾力性に富んでしなやかですが、加齢とともに弾力は失われていき、動脈硬化が進むと血管の壁が厚くなったり、血管の内側にコレステロールの成分が付着する『アテローム硬化』状態となる場合もあります。こうして血管の中が狭まったところには血栓(血の塊)が付きやすくなるため、血管が詰まってしまうのです」
ここで忘れてはならないのは、動脈硬化を進める要因は加齢だけではないことだ。喫煙・高コレステロール・高血圧・糖尿病・肥満・運動不足といった、生活習慣病とも関連する危険因子が存在する。そのため、若いからといって動脈硬化と無縁とは限らない。
実は意外にも、脳梗塞が起こりやすいのは冬ではないという。
「そもそも血管に悪いところ(動脈硬化)があると、血栓ができやすい素因(ある病気にかかりやすい素質)となるほか、夏に起こりやすい脱水症状が加わると血栓はできやすくなります」
では反対に、冬は少なくなるかといえば一概には言えないと続ける。
「冬は寒さの刺激で血圧が上がることで、心臓にも負担がかかる。心臓の働きが悪くなると血栓ができやすくなるため、心臓に由来する脳梗塞が起こるというのは十分に考えられます」
脳卒中は、一年中起こる可能性があるが、脳梗塞には夏と冬それぞれに起こりやすい要因があるのだ。
脳血管障害の二つ目、脳出血はどうだろうか。頭蓋内に出血すると多くの場合、頭痛や手足のしびれ、吐き気、嘔吐、意識障害が起こる。脳梗塞と同様に脳細胞へ影響を及ぼし、半身麻痺、認知機能の低下といった症状もみられる。
三つ目のくも膜下出血は、脳動脈瘤という脳の動脈にできたこぶが破裂して起こる出血だ。脳出血は、脳の血管が血圧に耐えられなくなり破裂するものを指す。これらの出血は、急激な血圧の変動によって引き起こされるため、高血圧、喫煙・飲酒をするひとほど発症リスクは高くなる。「脳出血を予防する上での天敵は、高血圧や血圧変動です」と河瀬は言う。
ヒトの体には寒さにさらされると自律神経の働きによって血管が収縮し、血圧を上昇させる反応が備わっている。屋外が寒く、室内が暖かい――この寒暖差にさらされる機会が増える冬は、急激な血圧の変動が起こりやすい。それが、近年よく耳にする「ヒートショック」を引き起こす。血圧が急激に上下すると血管に負荷がかかるというのは前述したとおりで、その負荷が脳卒中や心疾患の引き金となるのだ。
この寒暖差による急激な血圧変動が起こりやすいシーンは、ほかにもある。例えば、入浴。暖かい部屋から寒い脱衣所への移動で血圧が上昇したのち、湯船に浸かると今度は身体が温まりリラックスすることで血圧が下降する。また、若いうちは大丈夫と油断するのも禁物。サウナブームの「整う」という言葉がよく使われるようになった。サウナ、水風呂を繰り返すことで、心を落ち着かせることだ。しかし、知らず知らずのうちに体に負担を掛けている面を忘れてはならない。特に体調が良くないときは、「整う」ことは避けたほうがいい。スポーツやトレーニング後のクールダウンとしての氷風呂にも注意が必要だ。