「偽陽性」「人間ドック」「遺伝子検査」 「検査」の不都合な真実

取材・文 西村隆平 写真 中村治


日本人は「検査」が大好きである。
あまり知られていないかもしれないが、「人間ドック」や「集団検診」が行われているのは日本だけである。
さらに、民間事業者がビジネスで行う検査サービスにも人気が集まっている。
尿一滴でがんを発見出来る「線虫検査」や、「遺伝子検査」など、大々的に宣伝しているのを目にすることも多い。
これらの検査は、健康維持の役に立つものなのか。
そんな検査の真偽を、最先端の医療現場に立つとりだい病院の医師たちに聞いた。


「検査」の不都合な真実 「検査」の不都合な真実タイトル

医療分野は
グレーゾーンが大きい

「危険因子と言われるリスクがある方には勧められますが、脳ドックは全員がやる必要はないと思います」

と言うのは、鳥取大学医学部附属病院脳神経外科の坂本 誠准教授である。

脳ドックとは、脳梗塞などの脳疾患発症リスクの早期発見を目的として、MRI (磁気共鳴画像)や頸動脈エコー、血液検査などを行う検診コースの総称である。危険因子とは、病気と〝因果関係〟がある「要素」と言い換えてもいい。科学的根拠に基づき疾患の発生と関連がある要素だ。

「脳における危険因子とは、血圧がすごく高い方、中高年以上で糖尿病や肥満がある方、喫煙や過度の飲酒をされる方、脳の病気になった家族がいる方。こうした危険因子に心当たりがあれば受診したほうがいいと思います」

頸動脈エコー検査では、心臓から頭へ血液を送る大血管――頸動脈に超音波を照射、反射した波から動脈硬化の進行の程度を調べる。MRIは非常に強い磁石と電磁波を利用して、人体を任意の断面(縦・横・斜め)で画像表示する。血管など脳の細部まで目視が可能で、脳梗塞や脳動脈瘤などの血管の病気や脳腫瘍などを発見できる。脳ドックではこのMRIと頸動脈エコーを併用するのが一般的である。

「頸動脈エコーだけだと偽陽性が出る確率が高くて、アメリカなどでは推奨されていません。日本は人口当たりのMRIの普及率が世界一という背景があり、脳ドックが盛んなのだと思います。MRIを使えば、狭窄(動脈が狭くなること)があるかどうかをはっきりと確認することができるからです」

偽陽性というのは、新型コロナウイルスのPCR検査で広く知られることになった、その疾患にかかっていない人でも陽性を示すことをいう。

ここで留意しなければならないのは、脳ドックは保険適用されていないということだ。

保険適用とは、公的な審査・承認を経て、健康保険からの給付の対象として認められることを意味する。十分なエビデンス(科学的証拠)があり、国民に対して税金で補助するに値する医療行為である。

ビジネス面では、保険適用外の医療行為は「自由診療」であり、施設ごとに値段を付けることができる。MRIを所有する病院にとって、脳ドックは大きな収入源にもなりうる。そのため、社員の福利厚生の一環として企業の健康診断の中に入っているという面がある。

一般的に思われている以上に、医療分野の〝グレーゾーン〟――判断が分かれる領域は大きい。保険適用外の医療行為が、エビデンスを積み重ねてのちに保険適用となることもある。あくまでも〝現時点〟での一つの目安である。

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