鳥取大学医学科生=医師のたまご 略して とりたまに訊け!

取材・文 井野寿音
写真 中村 治


とりたまに訊け!

ストレートに自分の思った道を進むことのできる人もいれば、そうでない人もいる。医学科3年の坂本紗有理は後者だった。彼女は病院を経営する一家に生まれ、医者の娘であることが自分のアイデンティティの一部であったという。そして将来は自分も医師になることが当たり前だと思っていた。ところが医学部入試を受験する際、面接官を前にして、医師になって家族を喜ばせたいということ以外、志望理由が思い浮かばなかった。

「嘘でも人のためになりたいと言えなかったことがショックでした」

1年間の浪人を経て、東京理科大学薬学部に進学。しかし、自分は本当に薬剤師になりたいのかと悩み、学校に行けなくなる時期もあったという。そうした心の揺れは、学業にも影響する。進級に苦労し、薬剤師国家試験にも不合格となった。〝国試浪人〟を経て薬剤師資格を取得、実家の病院で働くようになった。

人生の転機となったのは、大学在学中に姉に誘われて通うようになったヨガだった。

「身体も固いし下手だし最初は大嫌いだったんです。でも、ヨガを始めて輝き出した姉の姿に惹かれるものがあった。ヨガには何か不思議な力があるのかもしれない、それだけを頼りにヨガを続けました」

続けるうち、心と身体が変わっていく感覚をはっきりと感じた。

2017年、ヨガが生まれた土地をこの目で見たいと、単身でインドに渡った。ヨガの聖地・リシケシで指導者養成講座を受講し、翌年、倉吉市でヨガ教室を開いた。

学士編入を決意したきっかけは、新型コロナウイルスの流行だった。ヨガ教室はストップ、自分を見つめなおす時間が増えた。

「今まで無意識に重さを感じていた医者の娘であることが実はすごくありがたいことだと気付いたんです。与えられた環境の中で世の中のためになることをしたい、その時、頭によぎったのが医学部への学士編入でした」

2022年、鳥取大学医学部医学科の学士編入試験に合格。現在は勉強の傍ら、倉吉市に加えて、米子市でもヨガ教室を開催している。悩み、苦しみ、寄り道をしたあと、戻ってきたのは、15年前歩み出せなかった医師になる道だった。先生に会ったら元気が出ると言ってもらえるような医師になるのが目標です、と明るい笑顔で話した。

医学部医学科3年 坂本紗有理さん
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