Tottori Breath 泌尿器内視鏡・ロボティクス学会で明らかになった米子の弱点



Tottori Breath

政府と観光庁は2022年6月、ポストコロナを見据えて日本の地域のインセンティブ旅行誘致、経済喚起、情報発信などを目的としてMICE(マイス)の促進を提言した。

MICEとは、ミーティング、インセンティブ、コンベンション、エキシビションイベントの意味。企業の会議やセミナー、講演会、見本市、大学や研究機関の国際的学会、文化イベント誘致・開催を指す。

資料ではMICEは参加者の消費支出で大きな経済波及効果を生むと説く。地域経済の活性化、交流を創出し、訪れた人々の地域認知が深まり観光・経済の競争力が向上するという。

しかし、MICEを地方でドンドンやれば潤うと考えるのは早計だ。

国際会議協会の資料によると、MICE開催件数調査(2019年)では1位は東京131件、2位京都67件、3位神戸35件。そのあと福岡、札幌、横浜、大阪、名古屋が続く。つまり、全て大都市なのだ(14位につくば、北九州と同率で島根県松江市がランクイン。開催7件と健闘している)。

昨年、米子市でも注目すべきMICEが実施された。

米子コンベンションセンター、米子市文化ホール、ホテルを舞台にして2023年11月9日~11日で開催された「第37回日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会総会」である。海外や全国から泌尿器科、ロボット手術、外科などの医師、技術者、医療関係者が2千人近く集結した。

会場では、とりだい病院パンフレット「トリシル」の表紙、とりだい病院の中にも作品が展示されている鳥取県大山町在住の画家、朝倉弘平さんの描いたポスターが大階段や立体絵に再現され出迎えてくれた。腎臓に空、ピンクの百合の花、ダイバーや鳥、魚や人が描かれ見る人の想像力をかきたてる。

展示場には、とりだい病院で3種類が活躍する内視鏡手術支援ロボット・ダビンチ、国産のhinotori、独立したアームが特徴的なHugoが展示された。その他、外科手術の高精度カメラやエコー機器など最新機器を展示。

ホール関係者は「こんな大規模な展示会は初めて。米子で最大規模の学会」と驚く。各ホールでは「内視鏡手術の心技体を科学する」や「先進手術の落とし穴、医療事故回避のために」など興味深い講演やセミナーが催された。

私もこの学会に参加した。今回の学会の経済波及効果も数億円あったに違いない。大成功だった。しかし、同時に今回の学会開催は米子の様々な脆弱性を炙り出した。

まずは交通の問題。全国から集う医師や関係者の足、飛行機や鉄道の交通の弱さ。飛行機増便や機体の拡大化は容易な作業ではない。また飛行場からのタクシーや送迎バスも、コロナ禍で減ったドライバーが戻らず車の確保が難しい。空港で交通難民になるという都市生活者ならば考えられない事態が起こった。早朝、夜は移動のタクシーがつかまらない。

宿泊施設も脆弱。境港や安来など周辺をかき集めても宿泊施設は足りなかった。その他、街角に英語表記が少ない。

挙げていけばきりがない。

今回は辛くも学会を支援するとりだい病院のスタッフが汗をかき、学会長の武中篤とりだい病院長自ら現場指揮をとり、獅子奮迅の活躍で乗り切った。米子や周囲の観光協会、交通各社の支援も大きかった。

とりだい病院がある米子市は、学会や見本市などMICEをもっと行える土壌はあるはずだ。参加者が米子や周囲の魅力と観光、食を積極発信すれば素晴らしい地域への還元となる。それが観光庁の言う都市の競争力につながる。指をくわえていても何も変わらない。



結城豊弘
1962年鳥取県境港市生まれ。テレビプロデューサー。とりだい病院特別顧問と本誌スーパーバイザーを務める。鳥取県アドバイザリースタッフ。境港観光協会会長。