鳥取大学医学科生=医師のたまご 略して とりたまに訊け!

取材・文 井野寿音
写真 中村 治


とりたまに訊け!

僕の学生生活はラーメンなしでは語れませんと、真顔で話すのは、鳥取大学医学部医学科5年生の井上大輔だ。井上は広島県福山市で生まれた。親、そして親戚はみな整備士であるという。

「知っている大人は全員車屋という環境でした。自分もいつか父と同じツナギを着るんだと思っていました」

そんな井上が医師を志したのは、小学生の時に読んだ『Dr.コトー診療所』の影響だった。これは離島に赴任した若手医師の奮闘を描いた漫画でテレビドラマにもなっている。

井上は人の命を助ける仕事に魅力を感じたという。大輔は好きなことをすれば良い、という家族の言葉が後押しとなり、2019年、現役で鳥取大学医学部に合格した。

入学後は初めてのひとり暮らしで、部活、勉強との両立に苦戦した。

「洗い物を10日分くらい溜めたこともありました。親のありがたみが分かりましたね」

と頭を掻く。そして鳥取でラーメンにのめり込むことになる。1年生の秋、常連として通っていた米子市内のラーメン屋『今を粋ろ』でアルバイトを始めた。開店前から行列ができる、〝二郎系〟の人気店だ。米子は名物である牛骨ラーメンをはじめとしていろいろな地域のラーメン屋が軒を連ねる、激戦区なのだ。ラーメン屋のアルバイトの役得は、賄いとしてラーメンが食べられることだと井上は笑う。週3回、店のラーメンを食べる。それに飽き足らず、平日は授業終わりに米子市内を中心に、そして休日は県外まで足を延ばし、年間365杯に達した年もあった。

日本各地のラーメンを食べた感想を綴った彼のSNSには1500人程のフォロワーがいる。

5年生となった今、井上はホール担当から昇格し、厨房を任されることもある。

「自分が茹でたラーメンをお客さんに食べていただく。美味しいって言ってもらえると嬉しいんです」

現在、井上は大学病院で臨床実習の真っ最中だ。そのとき、店で客と向き合っていたことが役立つことに気がついた。実習では、学生が患者さんの初診を任され、問診をし、カルテを書く。座学では分からなかった新たな気付きが毎日あるのだ。

「外科って患者さんと話さないと思ってたんです。でも実際は全然違った。患者さんと話すのが何より楽しいです」

将来はDr.コトーのように、地域の人々に愛される町医者になりたいと井上は言う。そして、その近くでラーメン屋も開ければいいですねとはにかんだ。

医学部医学科5年 井上大輔さん