Tottori Breath 「とりだい運営諮問会議」の新しい風



Tottori Breath

とりだい病院では、年に1回から2回程度、外部のさまざまな知見を持つ外部委員を招き、毎回テーマを設定、病院幹部や病院長と活発に意見交換を行なってきた。この「病院運営諮問会議」の議論から生まれた提言やアイデアが実際にとりだい病院の運営や施設、医療サービスに生かされていることも少なくない。

これまで4冊発刊された、カニジル「号外」で会議の議論内容が報じられてきたので、ご存知の方も多いだろう。今回は次の号外に先立ち会議の新しい息吹を伝えたい。

鬼手仏心(情け容赦なく見える手術も患者を救うためのもの。心に必ず慈悲心を持つことが大切)が座右の銘。「とりだい病院は社会的共通資本」と米子出身の経済学者・宇沢弘文氏の先駆的な考えを支柱にして病院を社会インフラと捉え改革を進めた前とりだい病院長・原田省さんから、この春、武中篤さん(泌尿器科教授)に病院長のバトンが渡っている。

それにともなって病院運営諮問会議の委員も顔ぶれが大きく変わった。

7月25日、武中新病院長が議論テーマとしたのは「病院運営における住民参加の形態(ボランティア活動等)について」だった。会議を取り仕切る会長に専任されたのは、新委員で“医療の翻訳家”として医療・健康分野で世界を取材する市川衛さん。病院とボランティア参加の意味を紐解きながら、世界の事例も紹介する。NHKのチーフディレクター時代にはNHKスペシャル「“パンデミック”との闘い~感染拡大は封じ込められるか~」(2020年3月22日放送)を取材・製作した方。医療現場の混乱と奮闘、治療薬開発を冷静な眼差しで丹念に取材した秀作だった。中立な立場からボランティア活動を行いやすい環境の構築の重要性を指摘。

また、こちらも新しく委員に就任した医療人類学や文化人類学が専門の人類学者・磯野真穂さんは、人類学の切り口からの視点で医療を語り、分析を行う。今まで聞いたことがない視点で話をされた。医師や医療機関の脆弱さ。SNSで増殖する「自分らしさ」という定義の危うさを説明。快適なボランティアとは何か。環境との調和をどう模索するのかを投げかけた。武中病院長の真剣な眼差し。会議に同席した病院関係者らのメモを取る手が止まらない。

3人目の新委員、著述家で編集者、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授(メディア論)の柳瀬博一さんの話も目から鱗だった。

『国道16号線 「日本」を創った道』(新潮社)の作者でも知られる柳瀬さんは「日本は世界に冠たる車社会。東京や大阪だけが特別。電車が縦横無尽に走る。日本は鉄道社会というがそれは実際とかけ離れている」と喝破する。柳瀬さんは会議に先立ち、米子の駅前を歩いてみたという。その上で彼はこう指摘する。米子市の実際の中心地は、駅ではなく、高齢者も学生という若者も集う、とりだい病院なのではないか、と。病院を真ん中に据えたシティーマネジメントを行い、街づくりを行うことが地方活性化であると提言した。

米子市の中心は、JR米子駅、あるいは駅前だと思い込んでいる方が多い。しかし実際に周りを見ても、交通手段の大多数は車。とりだい病院の駐車場の大きさを見ても明らかだ。一日の病院の滞留人口は約5千人。これは山陰地区ナンバーワンである。病院の職員数は約2千人。医師、看護師、患者、学生だけでなく、付き添いの家族、スタッフ、関連業者も病院を訪れる。現実に街の中心である。

現代の医学や科学技術は日進月歩。しかし、安心安全、大切な患者サービスや病気対応と心構えは変わらない。ボランティアの方々を含めて、病院が街の共同の場として益々その重要性を増し、地域を引っ張る存在であることを忘れてはならない。新たな委員の皆さんが指摘された本質はそこにある。



結城豊弘
1962年鳥取県境港市生まれ。テレビプロデューサー。とりだい病院特別顧問と本誌スーパーバイザーを務める。鳥取県アドバイザリースタッフ。境港観光協会会長。