Tottori Breath 「とりりんりん」の新たな進化



Tottori Breath

とりだい病院に通う外来患者や関係者の間で話題のスマートフォンアプリ「とりりんりん」。この可愛い愛称の診療受付・呼出しアプリの進化が止まらない。僕もとりだい病院の患者の一人なので、この超便利アプリの恩恵に与っている。

まず、受診前日に予定を知らせてくれる。病院の半径500メートル圏内ならば受付や再来機に行かなくても、アイコンを押すだけで受付完了。あとは院内でお茶を飲んだり、カニジルブックストアで本を探したり、パソコンで仕事をしたりと自由に時間を過ごせる。

その上、漫画・雑誌などの電子書籍閲覧やアメニティーの視聴も無料でできてしまう。「りん、りん」とスマホが鳴り通知が来たら外来の待合に行き、数分後に診察となる仕組み。待合の苛立ちから解消される優れものだ。

「とりりんりん」は、2019年5~9月のとりだい病院4診療科での試験期間を経て、9月26日から全診療科での運用が始まった。「とりだい病院の待ち時間は67分。全国平均より少し短かった。それでも患者さんからは、待ち時間が苦痛と言われ開発に踏み切った」と当時を振り返り原田 省前病院長は説明する。

ソフトウェア会社や携帯関連会社が同種の待合端末を開発した例はあるが、病院で独自開発するケースは全国でも珍しい。新型コロナ拡大時には、待合の感染防止対策と混雑緩和という効果も生み出した。

開発チームの医療情報部寺本圭部長は「患者サービスの点からもっと使いやすく発展させたい。患者さんと病院がダイレクトにつながれる大切なツール」と意気込む。

3月10日、「とりりんりん」に関して新たなニュースが飛び込んできた。日本政府が進める『デジタル田園都市国家構想交付金』(デジタル活用で地域の課題解決や魅力向上を行う拠点を支援)に採択され、事業費約2億9600万円が交付されることになった。

マイナンバーカード(保険証)と連携し、とりだい病院に加えて、博愛病院、山陰労災病院、米子医療センターの四つの病院で「とりりんりん」の基本機能が使えるようになる。さらに、米子市とともに開発する新アプリ『よなゴーゴー』で、共通デジタル診察券やフレイル予防プログラム、血圧記録、会計処理までをスマホでできることを目指す。将来的にはオンライン診療や病院連携も視野に入るという。

元アップルCEOのジョン スカリーは1987年の『スカリー 世界を動かす経営哲学』(早川書房)で、未来のコンピューターの使い方に触れた。翌年には、有名なナレッジナビゲーター(Knowledge Navigator)というコンセプトビデオで現在のコンピューターの姿と生活を予言した。

世界の天気やニュースを机の端末で知り、会議予約をタブレットの電子秘書にリクエストする。買い物と子どもへのプレゼントも声で指示。お気に入りの音楽や本を表示させ外出する。しかし、当時「そんな未来は断じて来ない」と識者は批判の嵐を巻き起こしアップルの評価は急降下した。僕は逆に、サンフランシスコの本社でこのビデオ映像を見てワクワクしたものだ。コンセプトを導いたパソコンの父・科学者アラン・ケイは「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」と説く。

今や時代は、先駆者たちの予想をはるかに上回る。

新たなアプリの登場と進化。医療と患者サービスの向上のために、どうか想像を膨らませ、患者の痒いところにも手が届く、そんな進化を期待したい。



結城豊弘
1962年鳥取県境港市生まれ。テレビプロデューサー。とりだい病院特別顧問と本誌スーパーバイザーを務める。鳥取県アドバイザリースタッフ。境港観光協会会長。