妊娠22週以後から37週未満で生まれた赤ちゃん——
早産児を受け入れるのが、N I C U(新生児集中治療室)である。
N I C Uには他にも低出生体重児や病状が重く
治療や全身管理が必要な新生児も運ばれる。
我が子を抱きしめたいと切望する親に代わって、
N I C Uのスタッフが丁寧なケアをしている。
通常、見ることのできないNICUに、写真家、中村 治のカメラが入った。
子宮の中から外へ出る。早産児にとって、その環境変化は想像以上に厳しいものだ。胎内でぼんやりと感じていた刺激が直接降りかかる。外気も光も音も衝撃も。すべてが赤ちゃんにとってはストレスになる。
「生まれてから72時間が最初の山」というのは、とりだい病院小児科助教で、N I C U病棟医長の美野陽一である。
突然の変化に赤ちゃんが順応できるかが、その後の治療を左右する。保育器は温度と湿度を調整して胎内に近い環境を作る。光や音も抑え、体への接触も最小限にとどめながら、72時間は慎重に外の環境に慣らしていく。
多くの早産児は呼吸も栄養摂取も自発的にできない。母親の臍の緒からの供給がストップするため、人工呼吸器や点滴で栄養や薬を送り込まなければならない。
しかし、肺をはじめ赤ちゃんの体はまだ未発達だ。人工呼吸器で送られる空気の圧力に肺が傷ついてしまったり、点滴を固定するテープを貼ったところから出血することもある。薬の量も、体重が少ないがために加減が非常に難しい。治療でさえも悪影響を及ぼしかねないのだ。
大人とは違い、赤ちゃんはまだ言葉が喋れない。生まれたばかりで赤ちゃん自身の情報が少ない中、治療がスタートする。だから——美野は、N I C Uの仕事について「想像して先回りするんです」と話す。スタッフステーションのモニターには、赤ちゃんの心拍数や呼吸数、血圧、酸素の値など、それぞれのデータが映し出されている。24時間体制で医療者はその数値を観察し赤ちゃんを見守り続ける。体への負担が増えていないか、治療の障壁になりそうなことが起きていないかを注意しているのだ。
NICUにいる赤ちゃんは、親と接触が限られる。親に代わり長く接する看護師たちは、小さくて傷つきやすい赤ちゃんを両手でそっと包み込むように触れ、ゆっくり優しく丁寧にケアを行なっている。
一つの指標がある。日本の新生児死亡率は出生児1,000人あたり0.9人。他の先進国と比べても1を下回るのは日本だけだ。
「自分たちは親じゃないけれど、赤ちゃんのためにできることは全部やる」
医療の進歩はもちろんであるが、新生児医療に携わる医療者すべてが、この思いを根底に持ち、大切に愛情を持って最善を尽くしている。
この日、仕事を終えた両親が面会に来られた。赤ちゃんの経過を両親に伝えると、安心した様子で、時間の許す限り赤ちゃんのそばについていた。
N I C Uには、親や医療者の優しい眼差しが常にあふれている、そんなところだと改めて分かった。