病院長が時代のキーパーソンに突撃!
対談連載「たすくのタスク」
認定NPO法人 本の学校顧問 永井伸和

写真・中村 治


鳥大の人々

今年で創業150周年を迎えた「今井書店」。
米子市で産声を上げ、今や山陰地区に18店舗を展開しています。
今回はその今井書店グループ元役員の永井伸和さんが登場。
米子市出身の経済学者・宇沢弘文氏について学ぶ「よなご宇沢会」の設立に携わり、
直接面識もあった永井さんと、宇沢氏の理念を通じて教育や、
医療と地域の関係などを語り合いました。

病院は"社会的共通資本"

原田 永井さんと初めてお話させて頂いたのは、今から6年前、2016年のことでした。鳥取大学の副学長を兼務することになり、(鳥取市、湖山キャンパスの)経営協議会に出席するようになった。永井さんはこの経営協議会の委員でした。

永井 会議の後、米子まで同じ電車でしたね。

原田 そのとき、永井さんが「いつも医学部にお世話になっています」とおっしゃったんです。永井さんが関わっておられる「よなご宇沢会」で医学部の記念講堂を使用されていたんです。恥ずかしながら、ぼくは「よなご宇沢会」を全く知らなかったんです。永井さんから、会の冠となっている宇沢(弘文)さんが米子出身で、ノーベル経済学賞に値するほどの評価を受けた経済学者であることを教えてもらいました。この若造、病院長とかいいながら、何にもしらないと思われたんじゃないですか(苦笑い)。

永井 (手を振って)いやいや、そんな風には思っていないですよ(笑い)。

原田 永井さんから宇沢先生の名前をお聞きした直後、中海テレビで『米子が生んだ心の経済学者~宇沢弘文が遺したもの~』(2016年9月)がオンエアーされました。この番組を観て、こんなに凄い人が米子にいたことを知りました。そこから宇沢先生の本を読むようになったんです。私は病院長になった後、悶々としていたんです。とりだい病院は、経済規模で考えれば山陰で最も大きな企業の一つ。その企業が高度医療の実践をするだけでいいんだろうかと。地域につながり、一緒に発展していくべきであるとは漠然と考えていました。同時に病院がそこまで手を出してもいいのだろうか、それは医療機関の本分からはみ出すことではないだろうかと。

永井 宇沢先生の言葉にヒントはありましたか?

原田 社会的共通資本という言葉ですね。永井さんには釈迦に説法ですが、宇沢先生は社会的共通資本を〈ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置〉と定義されています。

永井 はい。そこには「自然環境」「社会的インフラ」、教育や医療などの「制度資本」の三つのカテゴリーが含まれると。

原田 宇沢先生の娘さんである、医師の占部まりさんから「(宇沢先生が)病院は社会的共通資本だって言ってましたよ」と教えられました。社会のためにこの病院を生かす、そのためには色んなチャレンジをしてもいいのだという裏付けをしてもらった気になりました。

永井 原田先生が宇沢先生の考えに触れた時期、2016年から17年というのは、宇沢先生の功績が再評価される時期でした。2017年に日本医師会の横倉義武会長が世界医師会会長になっています。会長が宇沢先生ゆかりのシカゴ大学で講演したとき、宇沢先生の社会的共通資本に基づいて医療を再構築しなければならないとおっしゃった。

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