『カニジル』も今号で10号を数えた。応援頂いている読者の皆さんに心から感謝を申し上げたい。
原田省とりだい病院長から病院のブランディング向上とともに「もっととりだい病院の奮闘や新しい取り組みを市民や全国の人に知ってもらいたい。こんな素晴らしい病院なのに知られていないことが残念」と依頼を受け、最初に手がけたのが新しい病院広報誌を出すことだった。まず頭に浮かんだのが、常識にとらわれず“一番を目指せる人”を編集長ポストに据える事。「確か鳥取に住んでいたと話していた気がする」と曖昧な記憶を頼りに、気鋭のノンフィクション作家として活躍する田崎健太さんに相談した。今までに無い、病院広報誌を立ち上げたいから力を貸して欲しいと話した。2018年秋のことだ。
元小学館・週刊ポスト記者からフリーに転じた経歴から雑誌の編集も可能なのではと安易な考えの私に田崎さんは「雑誌を出すのは、そんなに甘くない」とたしなめられながら詳しく説明してくれた。最後は「やりましょう」と無理やり言質を引き出した事を思い出す。
そして、2019年4月創刊号発刊。カニジルの題を巡っては「こんなタイトルの病院広報誌でいいのかしら」「一回で覚えられる」「郷土料理にちなんでいるから暖かい感じ」と賛否両論だった。実は、田崎編集長が東京から降り立った米子鬼太郎空港で見つけた、“カニの味噌汁が出る蛇口”から発想したタイトル。
その後、カニジルは医療の難しい側面を分かりやすく記事に紡ぎ、病院に働く人々の苦労や夢までも詳しく伝えてきた。バックナンバーは、鳥取大学医学部附属病院の公式ホームページで見られるのでご覧いただければ嬉しい。
その後も、カニジルは、とりだい病院を知ってもらうために、様々な派生コンテンツを生み出した。
BSSラジオ「カニジルラジオ」(毎週土曜日昼12時25分~放送)はメインパーソナリティーの田崎さんと木野村尚子アナウンサーにご意見番の武中篤副病院長と脳神経外科の黒㟢雅道教授が加わり、医療ネタの掘り下げや解説など、新たな番組の魅力をまとっている。時には、県外の熱心なリスナーからも暖かい感想が届く。
また、全国どこの病院を探してもここにしかない本屋さんも生まれた。歌人の俵万智さんや吉本興業・大﨑洋会長といった著名選書委員のセレクトブックが並ぶ田崎さんこだわりの「カニジルブックストア」の展開。外来や入院されている患者さんだけでなく、職員、学生、地域の本好きの皆さんにも愛される本屋さんになりつつある。
その他、配布・設置する先から無くなる新病院パンフレット『トリシル』も話題。大山町在住の画家、朝倉弘平さんが描く色鮮やかな表紙が目を引く。院内の綿密な取材や人物を浮き彫りにするリアルな文章と中村治カメラマンの優しい目線の写真から目が離せなくなる力作だ。
『サピエンス全史 上・下』(河出書房)の作者で知られるユヴァル・ノア・ハラリは「進化は知識のバトン」と解く。まさにカニジルの進化と拡大は、とりだい病院の努力や病院をよくしていこうという気持ちが反映された進化だと私は考える。
とりだい病院では、新しい取り組みとして国内最大規模の高気圧酸素治療室を活用してアスリートの外傷治療を行い、整形外科や女性診療科とも連携するスポーツ医療をサポートする新組織「スポーツ医科学センター」が生まれた。山陰では初だ。また、腎臓病診療の向上を目指し「腎センター」が開設された。
カニジルの取材や進化は、まだまだ続くだろう。とりだい病院の歩みとともに。そして読者の皆さんとともに。
結城豊弘
1962年鳥取県境港市生まれ。テレビプロデューサー。とりだい病院特別顧問と本誌スーパーバイザーを務める。鳥取県アドバイザリースタッフ。境港観光協会会長。