癌などの早期発見を目的にハイビジョン画像システムやNBI(narrow band imaging)を併用した内視鏡検査を積極的に行っており、質的診断に役立つ拡大内視鏡・超音波内視鏡の併用も可能となっています。症例によっては患者様の苦痛軽減のため、経鼻内視鏡も行っています。
内視鏡治療では、食道静脈瘤に対する内視鏡的硬化療法・静脈瘤結紮術、消化管出血止血術、消化管内異物除去、消化管狭窄治療、早期食道癌および早期胃癌に対する内視鏡的粘膜切除術・アルゴンプラズマ及びレーザー焼灼術、早期大腸癌・ポリープの内視鏡的治療等の様々な治療を行っています。最近は早期食道癌・早期胃癌・早期大腸癌に対する新しい内視鏡的切除術である内視鏡的粘膜下組織剥離術(ESD)の件数が増えています。
ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎・消化性潰瘍・早期胃癌内視鏡治療後等に対するヘリコバクター・ピロリ除菌療法、炎症性腸疾患診療、食道・胃の化学療法にも積極的に取り組んでいます。
また、特殊検査として小腸内視鏡・カプセル内視鏡を施行しています。
患者さんにとって最も良い治療法を検討するために定期的に外科・放射線科との合同カンファレンスも行っています。
我々は内視鏡的切除または外科的切除した胃癌標本を用いて、癌関連蛋白発現などを解析して悪性度・進行度予測ができないか検討しています。また、内視鏡的切除した食道intraepithelial neoplasia、食道癌標本を用いて、癌関連蛋白発現との関連を検討しています。さらに食道癌に合併する早期咽頭癌も発見され内視鏡的切除も可能になってきています。内視鏡的に切除した咽頭癌・食道癌のみでなく、同一患者の胃癌、大腸腺腫・癌においても各種癌関連蛋白発現状況の検討を行っています。近年大腸鋸歯状病変を介した発癌経路の存在が明らかになり、CIMP (CpG island methylator phenotype)陽性or/and MSI(microsatellite instability)陽性大腸癌へ進展すると考えられるようになっています。我々は大腸鋸歯状病変の特徴を明らかにするために、内視鏡的切除した鋸歯状病変、腺腫、早期癌を臨床および分子病理学的に比較検討しています。食道発癌とアカラシアの病態、潰瘍性大腸炎関連大腸癌の病態解明に、微細粘膜構造や腸管リンパ装置の拡大・超拡大観察下に生検試料を採取し、マイクロRNAの網羅的解析、レーザーキャプチャーマイクロダイセクション、1細胞解析、セルソーティングなどの分子生物学的手技を用いて、発癌の分子基盤を解明していきます。
本邦では、近年の急激な高齢化により、抗血栓療法やNSAID使用、H. pyloriの感染率低下などにより、上部消化管出血の背景は変化しています。上部消化管出血の発生頻度と、原因疾患、NSAIDや抗血栓薬の使用状況と、防御系薬剤、特にPPIの使用状況を調査しています。これら要因が上部消化管出血の原因や治療成績にどの程度関与しているかも検討しています。国内外の先進技術を取り入れ最新の内視鏡技量の向上に努め、消化管出血など緊急性消化管疾患に対して最善の治療を行います。このように、当科の消化管グループでは、消化管のプライマリケア~高度先端内視鏡診療まで対応し、その中から実臨床に即した研究テーマに取り組んでいます。
回腸末端にある最大の腸管関連リンパ組織であるパイエル板に注目し、拡大内視鏡による微細構造を解析しています。クローン病ではパイエル板の表面構造異常が明らかで、走査電顕でM細胞や吸収上皮に不整がみられました。さらに、分子生物学的手法により腸内細菌フローラの網羅的解析を行っており、新たな視点からクローン病の原因究明を目指しています。潰瘍性大腸炎の大腸粘膜で超拡大内視鏡観察を行い、長期予後(再発、手術)との関連性を報告しています。
化学放射線治療後の再発・遺残食道癌にレザフィリン光線力学的治療(PDT)が保険収載を受け患者に優しい低侵襲治療であるPDTの症例を集積しています。企業と新たな光感受性物質を用いた温熱光線力学的療法、さらには胆膵癌への応用など独自の取り組みを行います。胃癌の光線力学的診断(PDD)に関しては、より診断能の高い内視鏡スコープの開発を目指します。5-アミノレブリン酸の中間代謝産物の光学的、生化学的な分析を行い、新規の癌バイオマーカーを探索しています。分子イメージングにより癌の高精細な蛍光診断法を開発することを目標にしています。定例開催の「New Image and Next Advanced Intervention (NINAI) meeting」では、国内外から分子イメージングの研究者を招聘し、PDDに繋ぐ新たなイメージング法、治療と診断を同時に行うTheragnosticisを目指した薬剤、デバイスの開発に向けた検討会を行っています。医学・光学・工学・薬学・物理学・生化学など分野の枠を超えた産学・医工連携を深める場に発展しています。
平成26年度の胆膵内視鏡検査件数は内視鏡的逆行性胆管膵管造影(以下ERCP)256件、超音波内視鏡(以下EUS)およびEUS関連手技418件と、山陰地方でも随一の検査件数を誇っております。その理由としては、県内外を問わず、診断・治療困難症例を多数ご紹介頂いていることが挙げられます。
当院では、切除可能な膵癌・胆道癌を確実に診断することに精力的に取り組んでおります。具体的には、超音波内視鏡下生検(以下EUS-FNA)と膵液細胞診を併用することにより、その正診率を95.9%、胆道癌においては、各種モダリティを併用することで正診率88.4%と、世界トップレベルにまで精度を高めております。
また、ERCP関連手技に関しては、胆管・膵管挿管成功率は98.3%と、エキスパートの基準とされる90%以上を保っており、その技術を元に内視鏡的除石術(総胆管結石・膵石)、内視鏡的膵胆道ドレナージ(胆嚢を含む)、内視鏡的十二指腸乳頭切除術、を実施し、EUS関連手技に関しては、EUS-FNAはもちろんのこと、EUSガイド下嚢胞ドレナージ(EUS-CD)・内視鏡的ネクロセクトミー、超音波内視鏡下瘻孔形成術による閉塞性黄疸治療(EUS-BD)、腹腔神経叢融解術(EUS-CPN)等も実施するなど、胆膵内視鏡関連の全ての手技を患者様に提供でき、他施設にて実施困難であったほぼ全ての内視鏡処置を完遂しています。また胆道癌・膵癌のみならず、食道癌・胃癌等による悪性腫瘍に伴う消化管狭窄に対しても内視鏡的消化管ステント留置術も実施しております。
化学療法に関しても、実地医療において都市部の高次機能病院と比較して遜色ない医療レベルを保ちつつ、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)肝胆膵グループ等の臨床試験に参加するなど、患者様により良い医療が提供できるように日々努力しております。
自施設のみならず、山陰の周辺施設の医療レベル向上に貢献すべく、医師(勤務医、開業医)、検査技師、看護師の皆様に向けた勉強会も実施しており、2016年度は10回以上の勉強会を山陰各地で開催予定としております。
さらに膵癌に関する不安を感じられる市民の皆様のご意見を反映し、新聞・テレビ等のメディアにもご協力を頂きながら情報を提供しております。
長径40mm大の乳頭部腫瘍を一括切除
被包化膵壊死に対する超音波内視鏡下膵嚢胞ドレナージ・内視鏡的ネクロセクトミー
超音波内視鏡下瘻孔形成術による閉塞性黄疸治療
超音波内視鏡下生検の際にサンプル中に検体が採取されているか否かを病理医・細胞検査士による迅速細胞診を実施せずに判断することは困難なことが多いです。しかし、同時に病理部の人手不足により迅速細胞診が導入できない施設が大半を占めています。我々はこの問題を解決するデバイスを開発し、その臨床的有用性を確認しました。2015年2月企業と業務提携し上市し、各施設より好評をいただいています。また、TSCIを用いた多施設共同臨床試験を当科主導で実施予定です。
標的検体確認照明器(TSCI)
膵液細胞診は既報によるとその正診率は50%前後と良好ではありません。我々は、EUS-FNAでは診断できない膵癌に対して合成セクレチン製剤を用いた膵液細胞診により、その正診率を88.8%にまで高めることに成功しました(Matsumoto K et al.JGH2014)。既存の画像検査では同定できない0.2mmのとても小さな膵癌を発見することにも成功しています。
画像では同定できない0.2mmの膵臓癌の発見に成功
体外式腹部超音波検査は膵癌スクリーニング検査項目に上げられ、その簡便性が評価されているものの、有用性に関しては、CT・MRI・超音波内視鏡に比較して低い現状があります。我々はMRIを撮像した健常人に対しRealtime Virtual Sonographyを実施することで、体外式腹部超音波検査でも胆道・膵臓全体の90%程度を描出できる手技を確立し、実践しています。
膵癌診療において、治療方針決定目的に病理学的エビデンスを取得することが重要となっていますが、全国的にみてもエビデンスを取得せず治療方針を決定していることが少なからずあります。我々は、当科ならびに当科関連病院の膵癌診療の実態を調査、分析し、関連病院全体での診療形態の均てん化に繋げています。