2005年5月より2008年3月までの3年間、科学技術振興調整費を得て、インターネット総合研究所とNEC東芝スペースシステムとの共同研究を行いました。
研究の目的は2008年2月に打ち上げられました。超高速インターネット衛星「きずな」(開発名「WINDS」)の基礎実験として地上インターネット回線と衛星回線をシームレスに接続して日本のデジタルデバイドの解消のための基礎実験でした。
鳥取大学医療情報部は、2002年のNASDAとの共同研究「モバイルホスピタル実験」の経験を活かして、地上インターネット回線と衛星回線を結ぶシームレス回線上で在宅医療と災害時医療支援を行う実験を致しました。
同実験の広報用ホームページは「デジタルデバイド解消に向けて~衛星と地上通信網の融合実験~」(※新しいウィンドウで開きます。)にあります。
2005年度は基礎実験をおこないました。
TV会議システム利用の場合に衛星ゲートウェイにおけるパケット管理上の問題でUDP, TCPパケットの不整合が発生することから十分な通信効率を得られないことがわかりました。
この対策としてテレビ会議のシステムをTCP通信のみで会議可能なネットワークカメラを用いたものにしました。2社の機器を実際に使用し、評価の上、1社のものに決定しました。
同時に利用する医用画像サーバについて、Web型DICOMサーバを2種導入し、検討しました。最新のサーバサイドコンピューティング技術を用いたものは地上回線では通信の細いネットワークでも十分に利用でき、評価が高かったのですが、衛星通信では衛星ルータがパケットを大きくするためにこの効果が少なく、逆に、最初の通信設定時の頻繁な双方向通信にタイムラグを発生させ、当初、通信開始ができない問題が発生しました。衛星ルータの改良により、通信できるようになりましたが、一旦、通信できると通信量が少なく押さえられるため、最新型の通信速度は速くなりました。
遠隔医療ではVPNの使用が要求されていますが、衛星ルータとの競合があり、ネットワークカメラを使ったテレビ会議システムについては非常に通信が遅くなり問題であることが実証されました。今後、複数の衛星ルータ(2001年度のルータでは問題の発生の可能性は低いと想像しています。)と複数のTV会議システム、画像サーバの実証実験が必要と考えています。このような経験と機材のあるのは、われわれのところだけですので、今後、研究を進めようとしています。
遠隔医療災害時医療支援で用いる端末は小型で、汎用のシステムの必要があります。PCのモニター輝度も計測し、医用画像に十分な表示能力を検討しました。研究開始時の2005年には、医用画像専用のモニターは高額で大型でした。一方、市販のPC、特にノートPCは十分な輝度、輝度特性のものはありませんでした。しかし、液晶のバックライトは最近蛍光管からLEDに変わってきています。また、ビデオ鑑賞のために黒の締まりが良くなってきています。研究終了後、LEDバックライトのPC、PDAについて輝度計測をおこない、良好な結果を得ています。速報は2009年4月の日本医学放射線学会で報告しました。この時、座長の佐々木先生から論文にするよう求められました。
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2006年には在宅医療のための電子カルテシステムを開発、試作し、実際に大山町の患者様宅に衛星通信のパラボラアンテナを設置して鳥取県立療育センターと結んで実運用いたしました。(写真1)この様子は、2008年2月朝7時のニュースでも取り上げて頂きました。 システムの概要ですが、2001年のNASDAとの共同研究で大学病院と日野病院とその患者宅を衛星通信で繋いだ在宅医療と遠隔読影システムの経験から、在宅医療では患者中心に多くの病院が接続できることが必須であることがわかりました。 その意味からWebサーバを用いた在宅医療支援システムとして開発しています。患者は複数の病院:定期的な通院あるいはあるいは在宅看護を受ける病院と定期的に受診する専門病院、時に受診する耳鼻科、眼科、皮膚科などとの連携ができる必要があります。あるいは、介護ステーションも今後、必須です。このような機能があると災害時にも通信基盤さえあれば避難先と病院、訪問看護師、介護ステーションと連携が取れます。 機能的には(1)TV会議、(2)生体モニタ情報(体温、血圧、心拍数、動脈血酸素分圧、心電図)、(3)医用画像(在宅X線撮影、超音波検査画像、病院でのCT、MRI検査画像)が参照できる機能、(4)電子カルテとしての記録および次回診察、訪問看護、訪問介護の予約スケジュール管理機能が必要と考え、これらが連携するシステムにしています。これら4つの機能は標準的に必須の機能と提案しました。 研究終了後(2008年4月以降)、患者様の継続利用の要望があり、鳥取県療育センターのご協力もあり、患者様にインターネット地上通信基盤を用意して頂いて、文部科学省の了解のもと、機器の使用を現在も継続して頂いています。 |
災害時医療の通信はバックパック端末から無線LAN、衛星通信、インターネット経由で後方支援病院に接続する。
Web型の在宅医療システムは通信基盤さえあれば、関係する病院、訪問看護師、介護ステーションとの連携が取れます。また、機能的に(1)TV会議システム、(2)生体モニター記録、(3)医用画像システム、(4)電子カルテ機能がありますので、災害時に通信回線を確保すれば、避難所にいてもこれまでの医療機関と接続できますので、災害時のシステムと説明しました。 しかし、十分に理解して頂けない方もいらっしゃったので、充電池を用意してバックパックにしました。衛星通信と無線LANで通信基盤を確保すると、災害現場に直接在宅システムと用意できます。
2007年9月には、災害現場での使用可能なものにシステムを改良して、鳥取県総合防災訓練に参加いたしました。大地震により三朝町のトンネル内200mで発生したバス事故を想定したものでしたが、トンネル内の患者の様子と心拍数などのせいた情報を無線LANと衛星通信、インターネットを経由して倉吉の河川敷に用意した仮病院でリアルタイムで見ることができましたし、トンネル出口の救護所で撮影したX線撮影画像や超音波検査画像も伝送して見ることができました。この様子は、テレビでも紹介して頂きました。
プロジェクトで撮影したビデオを編集して見て頂けます。
紹介ビデオ(PCによっては音量が大きすぎる場合があります。最初、半分くらいに下げておいてください。)
10月には沖縄県の名護市の名護療育園と国頭村の患者様宅をどちらもパラボラアンテナを設置して衛星通信とインターネットを介して鳥取大学病院医療情報部のサーバに接続して在宅医療支援をする実験を実施しました。
実際に、冬場に患者様の体調が悪化し、北部病院入院されましたが、2度外来受診をすることになりました。もしこの機器が北部病院にもあれば、入院がもっとスムースにできたと思うと言って頂きました。
2008年3月の実験終了後、患者様からはご利用の要望はございましたが、代替えの地上回線が無く、機器は回収致しました。
また、12月には日野病院の往診にも利用して頂く実験をおこないました。患者宅で撮影したX線写真、超音波検査画像を衛星通信を利用して日野病院ですぐに診断でき、有効性が認められました。
2008年3月に実験は終了しましたが、鳥取県総合療育センターと大山町の患者様宅は地上回線で結んで継続使用していただいています。