ハーバード大学医学部附属ジョスリン糖尿病センター研修に行きました

ジョスリン糖尿病センター研修録

鳥取大学医学部付属病院内分泌代謝内科、糖尿病チームでは、アメリカボストンにある、ハーバード大学医学部附属ジョスリン糖尿病センターにて3月14日から25日まで2週間の研修を行いました。

ジョスリン糖尿病センターはエリオット・ジョスリン先生が100年前に開かれた、世界最古、最高峰の糖尿病センターです。ジョスリン先生の「教育こそが最高の糖尿病治療」という理念の元、糖尿病の臨床、研究が行なわれています。

今回は外来にて糖尿病患者を教育する「DO IT: diabetes Outpatient Intensive Treatment」プログラムの研修、外来見学、また、アジア系アメリカ人を専門に診療するアジアンクリニックの外来見学をさせていただきました。

ジョスリン先生

受付にあるジョスリン先生の肖像画と記念撮影

 

DO ITプログラムではまず初日に医師、看護師、栄養士、運動療法士の聞き取りが30分程度ずつあり、患者さんの治療状況などを各職種が把握します。3日間、朝の7時半から15時まで、糖尿病について、食事療法、運動療法、フットケアなどについてみっちりと講義、実習が行われます。

糖尿病についての講義は糖尿病という病気について、診断、合併症、コントロール基準などのお話があり、運動療法の講義はウォーキングなど有酸素運動を主体として、バンドを使ったレジスタンス運動、ストレッチを用いたバランス運動を指導していました。これらは日本と大きく変わりありませんでしたが、栄養指導は炭水化物中心の指導で、日本の旧来行われてきたカロリーベースの指導とは異なる印象を受けました。ただし、炭水化物は一日130g以上取るように指導されており、極端な制限は行わないように指導されていました。

 

運動療法の講義内容は日本とあまり変わりありませんでしたが、こちらは運動療法士という職種があり、日本の神経疾患や整形疾患の疾患ベースの理学療法よりも運動療法専門の療養指導士さんが指導しているのが印象的でした。治療内容と血糖を見ながら、運動中に低血糖になりそうな時には補食をさせたりしていました。

Jakieさん

運動療法士Jackieさんと脂肪、筋肉モデルを持って

 

DO ITプログラムで一番印象的だったのは、臨床心理士さんの講義が2コマあることでした。糖尿病になったのは「FATE:運命」であり、交通事故にあって死ぬのも運命かもしれないが、これは変えられない運命であるのに対して、糖尿病の今後は変えられる運命である、という事をお話しされていました。最終日の講義でも、過去、現在のことはあまり考えず、未来のことをしっかり考えていきましょう、というお話をされていました。

 John Zrebiec

臨床心理士のJohn Zrebiec先生と

患者さんも、40年もインスリンを打っているが、昔は死んでいた病気が、バンティング先生とベスト先生がインスリンを発見してくれたおかげで、長生きさせてもらって、今はたいした合併症もなく、生活をエンジョイできていることに感謝したい、と言われていたのが印象的でした。

後ろ向きな日本人の思考に比べて、前向きなアメリカ人の思考が大変印象的でした。

外来見学では個人情報の問題であまり多くは書けませんが、非常に巨漢の方に150単位のインスリン、SU剤、メトホルミン、GLP1アナログが使われており、すべてが日本の2倍以上の量で驚きました。

アメリカでは日本では一本4000円ほどのインスリンが3万円以上するそうで、保険の種類によって負担額が大きく変わるようです。あまり心配ない程度に保険をかけようとすると、負担額が月に20~30万円になるそうで、日本は良い国だと改めて思いました。

 

第二週目にはアジアンクリニックでアジア系アメリカ人の外来診療、栄養指導を見学しました。アジア系アメリカ人は白人、黒人の肥満の強い糖尿病とは異なり、我々日本人と同じようにやせ形でも糖尿病になりやすく、その病態に併せた治療が必要になります。英語は全く話せず、中国語しか話せない患者さんもおられ、中国語が話せるHsu先生、Hou先生が外来を行われていました。栄養士、糖尿病療養指導士のKarenさんのお話では、中国系の方ではご飯を茶碗に2~3杯食べるのが普通だそうで、そこにアメリカの清涼飲料水や甘いお菓子が入ってくるととても血糖が悪くなるという事でした。

AADI

アジアンクリニックのスタッフ。左からKing教授、Claudiaさん、Hsu先生、Hou先生、Shetty先生、Karenさん、ちひろさん。

 

アジアンクリニックで働かれている日本人のちひろさんに色々と案内していただき、色々な経験ができました。ちひろさんは日本でコンサルタントをしていたそうですが、糖尿病、医療に非常に造詣が深く、ちひろさんは料理の栄養評価ができる「Dragon Cook」https://dragncook.joslin.org/#/というアプリの開発に携わっており、今後は日本語版も出るそうですので、使っていきたいと思います。

ちひろさん

ジョスリンの研究責任者である、King教授と研究のお話もさせて頂きましたが、1型糖尿病で50年間あまり合併症を起こさずにおられる患者さんでは何が保護的に働いているのか、という研究を色々とされておられました。鳥取県の検診データも見て頂きましたが、今後は日本人の非肥満2型糖尿病で長期的に何か影響するのか調べるのはどうか、というようなお話をいただきました。

King教授

研修時間が長かったのであまり観光はできませんでしたが、ハーバード大学の見学も行いました。ボストンは日本人が多いためか、日本食の美味しいレストランもありました。ちひろさんに教えて頂いた、Ebi Sushi Barというお店のお寿司は美味しかったです。ボストンはロブスターで有名な街ですが、Summer Shackというお店も教えて頂きました。日本食材の店もありましたが、驚いたのはカップ天ぷらそばが350円もすることでした。

ハーバード医学部

えびすしろぶすたー

ボストンの地で、日本人、アメリカ人、アジア系アメリカ人の糖尿病の病態、教育法の違いなどが分かり、大変有意義な研修となりました。立派な研修修了書も頂きました。このような機会を与えて頂いた鳥取大学医学部付属病院ならびに関係の方々に厚く御礼申し上げます。

ジョスリン研修終了証

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