Tottori Breath vol.3 とりだい病院のサービス・イノベーション

文・結城 豊弘

Tottori Breath

組織には常に「刷新」と「改革」が必要

企業のトップと話をしていると「サービス・イノベーションの大切さ」がよく話題に上る。昔は製造業や流通が産業の根幹にあった。しかし、産業構造が大きく変化する現代において、サービスに関わる産業や形態は、ますます重要性を増している。

いかに優秀な人材を確保して、生産性の高いサービスを供給できるかどうか。サービス態勢のイノベーション、すなわち「刷新」や「改革」が急務だというのだ。あわせて、与えられるサービスに対して、享受する人々が、一定以上の高評価を下してくれるかどうかも忘れてはならないポイントだという。

これを実現するには、社員のサービスに対する知識や技能の修練、接遇の見識と意思疎通を円滑に行える高度のコミュニケーション能力が求められる。言い換えれば、相手の心を読み、ニーズを尊重し、理解して実現する力がいるということ。文で書くと硬くなるが「いつもお客さまに、優しい気持ちと思いやりを持って、マメに接していかないと商売は絶対に成功しないよ」と。そういうことだ。言うは易く行うは難し。ある調査によれば 私たちは、1日平均6 ・2時間もコミュニケーションに費やしているそうだが、本当に質の高いサービスや思いやりを仕事や生活の上で発揮できているのだろうか。

とりだい病院に入院し手術。現在もリハビリに通院する私にとって、病院のサービス・イノベーションも例外ではない。プラス意識を持ち、病院にこそ浸透・実践してほしい大切なテーマだと考える。


病気の時には心が不安になる

例えば、病院での苦痛の一つが診察を受けるまでの待ち時間。「まだ私の番じゃないのか」と待合でヤキモキ。外来患者なら一度は、経験するストレスだ。

とりだい病院は、この待ち時間の悩みを解消するため、患者呼び出しのスマートフォンアプリを開発し配布している。名付けて「とりりんりん」。再来患者は、アプリをダウンロードしておけば、自分の診察時間が近くなると呼び出し音とともに「まもなく診療を開始します」と画面表示が出る。診察室の前の椅子で「今か今か」と苛立たなくても、コーヒーを飲んだり、パソコンで仕事をしたり新聞を読んだりと、自分のペースで診察を待つことができる。これも画期的なサービス・イノベーションだ。

その他には、院内の表示や看板、案内をもっと分かりやすくしてほしいし、医師や看護師の患者へのさまざまな説明の丁寧さとコミュニケーション力もさらにアップしていただきたい。

病気の時には、元気な時より心が不安になる。それは私も経験したこと。ちょっとした医師・看護師の笑顔や言葉一つで、不安という暗い沼は、日の射す美しい湖になる。

昨年秋、とりだい病院ではテレビ朝日・松井康真元アナウンサーや元日本テレビ・魚住りえフリーアナウンサー、ANA元キャビンアテンダントといった話し方や接遇のプロを迎え、「スマイルアップウィーク」と題して一週間研修を行い、職員や医師、看護師などがコミュニケーション能力の向上やおもてなしについて勉強した。普段はやらない発声練習と早口言葉に汗する皆さん、相手の心を開く話し方など、熱心にメモをとる看護師の姿。講義が終わっても壇上に詰めかけ講師に質問をする医師ら。サービス・イノベーションの大切さについて体験勉強する場となった。

とりだい病院の中にある食堂に併設されたベーカリーカフェ「メーランモール」では、朝からいいパンの香りがあたりを支配する。近所のお母さんや出勤前の会社員が、黄金色のパンをトングで掴む。クロワッサンやアンパン、コロネ、サンドイッチ。パンの種類も豊富だ。聞けば米子市で一番美味しくて、売れているパン屋さんの一つだという。買っている人は、みんな嬉しそうだ。病院に用事がない人も集う人気のスポット。もちろん私も通院の合間にホッとさせてもらっている。こんな場所があるのも、この病院の魅力の一つなのだ。



読売テレビ 報道局兼制作局 チーフプロデューサー
結城豊弘
鳥取県境港市出身。駒澤大学法学部を卒業後、読売テレビに入社。アナウンサーを経て番組制作に転じ、「オウム真理教問題」の報道や『情報ライブミヤネ屋』の制作などを経験し、現在は『そこまで言って委員会 NP』を担当。
共著に『地方創生の真実』(中央公論新社)。鳥取県戦略アドバイザリースタッフであり、鳥取大学医学部附属病院特別顧問を務める。