薬物療法内科

 薬物療法内科では、診断上、特殊な専門的検査を必要としない生活習慣病全般に対して、当診療科独自の専門的知識を生かした安全で効果的な薬物治療を行うことを目指している。すなわち、薬の個々の特性や作用様式の知識を生かして、患者の病態に合った薬物選択を行うとともに、薬効評価を行うものである。具体的には、薬物代謝酵素の遺伝子多型判定や独自のソフトを用いた薬物血中濃度シミュレーションを含む臨床薬物動態学的検討を通して、薬物治療の最適化を推進するための診療を行っている。また、特殊外来として、薬やサプリメントなどの疑問に答える「お薬外来」、ニコチン依存からの脱却を支援する「禁煙外来」で、個々の要望に応えている。診療は、原則として木曜日、金曜日に、長谷川教授、三浦准教授が担当している。
 一般外来では、診断に高度な専門的検査等の不要な脂質異常症や高血圧、肥満などの生活習慣病や、慢性肝臓病などのありふれた疾患の患者に対し、個々の患者に最適な薬の選択や、薬のさじ加減を中心とした薬物治療の普遍的な問題に関し対応している。すなわち患者の病気・病態の個性に適合した個性の薬を使い、適確な効果判定を基にした個別薬物治療を目指して実施している。
 近年は複数の慢性疾患で多くの薬剤を服用している患者が多くなっており、そのような場合はもちろんのこと、急な感冒や、胃腸炎などに罹患し、更に薬が増えた際など飲み合わせの心配のある患者から相談を受けているのが「お薬外来」である。このような多剤併用等、薬に対する心配・不安への対応や、各診療科の専門医と連携し、薬に関する相談に応じている。また治験に関する相談に関しても窓口になっている。特に最近は薬や健康食品、サプリメントなどを飲みだしたことから、それまで続けていた薬の効果が無くなってしまったり、逆に有害作用がでるほど強くなったりすることが知られている。中にはグレープフルーツジュースばかりでなく、リンゴやオレンジジュースなどと一緒に飲んでも作用が期待できなくなる薬も明らかになってきた。薬の効果が急に変化した場合などその原因を調べるお手伝いをしている。
 また、薬の服用中、副作用ではないかと思われる症状が現れた時、原因となった薬を探したり、可能性の高いものを判定したりするお手伝いをしている。
  「禁煙外来」では、健康保険でニコチン依存症の治療を行う施設として「禁煙治療のための標準手順書」に沿った診療を行っている。また、教育ソフトを用いてたばこの健康への影響について説明し、喫煙量の目安として理解しやすい呼気中一酸化炭素濃度の測定を行って、禁煙指導に役立てている。離脱症状に対してはニコチンパッチ製剤や内服薬などの禁煙補助薬も積極的に利用している。きめ細かい指導により、禁煙による気分の落ち込みなどが予防され、気分の評価指数が改善する結果が得られ、学会で報告している。平成26年度の禁煙達成率は68.3%と、前年度よりやや低下したものの高い成功率を誇っている。
 さらに当科では、最近多く開発されている遺伝子医薬を患者に投与する場合、投与前後での遺伝子発現の抑制率を評価できる方法を開発しており、先進医療への採用を目指している。3mlの空腹時採血だけで、患者の身体もしくは病巣内で過剰に発現している遺伝子があるかどうかを判定でき、なおかつ投与された薬が、確かにその目標となる遺伝子を抑えているかどうかを評価できるもので、現在、早期癌診断として、肝癌、肺癌、消化器癌、婦人科領域癌、膵癌(消化器内科との共同研究)、甲状腺癌(内分泌代謝内科との共同研究)での検討や、PET-CT(放射線科との共同研究)との比較検討を進めている。また当手法を用いて、致死的炎症性疾患の早期診断への適応を目指し、その例として劇症肝炎の肝移植判定を早期に行えるマーカーを見出して検討を進めており、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)、SIRS(全身性炎症反応症候群)の早期発見マーカー(麻酔診療科との共同研究)や、慢性心不全の急性増悪に関するマーカーとしてのマイクロRNA(循環器内科との共同研究)なども探索している。

                                             (三浦 典正)