癌の手術においては、根治性とともに、手術後の生活の質を損なわない手術方法を選択しています。

1.食道癌治療

食道癌は再発しやすく悪性度が高い癌ですが、われわれは、様々な治療を駆使して少しでも生存率を高める努力をしています。

1)手術治療

基本的には開腹、開胸、頚部操作により食道摘出とリンパ節郭清を行います。侵襲の大きな手術の一つですが、われわれは、開胸操作に内視鏡を用い、出来るだけ胸の傷を小さくして、術後の疼痛緩和を計っています。また、手術前に化学療法を行い、それから手術を行うことで、再発を極力抑えた手術法を取り入れています。それにより、手術後の患者様の予後の向上を目指しています。

2)化学放射線療法(CRT)

高齢者や心肺合併症を有する患者様には放射線治療+制癌剤治療(タキソテールを現在使用している)を行い、手術治療に匹敵する良好な成績を得ています。比較的侵襲が少なく、かつ癌が消失、縮小する比率(奏功率)が高いのが特徴で、入院中の食道癌患者の1/2は化学放射線療法(CRT)で治療されています。

2.胃癌治療

胃癌は肺癌や大腸癌とならび本邦で最も多い癌の一つであり、年間約5万人の患者が胃癌で亡くなっていると言われています。われわれの診療科ではこれまでに6000例を越える胃切除の手術経験があり、その経験に基づいた高度な胃癌治療を提供しています。当科の胃癌治療の特徴を以下に示します。

1)低侵襲手術

当科では胃癌手術において、なるべく体に負担をかけずに手術を行うことを心がけています。そうすることによって術後の社会復帰が早まります。実際には、内視鏡治療の適応にならない早期癌および一部の進行癌に対して腹腔鏡手術を積極的に行っています。現在では当科で行う胃癌手術の70%程度を腹腔鏡で手術しています。胃癌腹腔鏡手術は高度な手術技術が必要ですが、当科では3名の胃癌内視鏡技術認定医が所属し、その専門医を中心としたチームで手術を行い、安全に手術を行っており、安心して腹腔鏡手術を受けていただける体制が整っています。また、早くからロボット手術も導入しています。2018年4月から胃癌のロボット手術が保険適応となり、一定の基準を満たした施設ではロボット手術を保険診療として受けることが可能となりました。当科はその基準を満たしており、腹腔鏡手術に加えて、希望があれば保険診療でロボット手術を受けて頂くことも可能です。

2)高度進行胃癌に対する取り組み

高度進行胃癌は術後の再発が多く、治療成績はいまだに十分とは言えない状況です。当科では高度進行胃癌症例に対しては積極的に術前化学療法などを行い、術後再発を抑える取り組みを行っています。また、抗癌剤治療を適切に行うことによって、初診時には手術が出来ないような高度進行胃癌が手術できるようになるケースも最近では増えてきており、決してあきらめることなく、患者様と相談しながら治療を行っています。

3)胃癌腹膜転移への取り組み

胃癌に多く認められる転移として腹膜転移があります。一般的には全身化学療法が行われますが、治療成績は不良です。当科では腹腔内に直接抗癌剤を投与する腹腔内化学療法を積極的に行っており、これまでに良好な治療成績を認めています。また、適切に手術と本治療を組み合わせて行うことにより、従来は治癒が望めなかった進行胃癌に対しても、治癒を目指した治療を行っています。

4)胃癌に対する免疫治療

2017年9月に胃癌に対して免疫治療薬であるオプジーボが保険適応となりました。オプジーボは免疫治療薬であり、従来の抗癌剤とは全く異なった副作用が出現することもあります。当科では十分な免疫に関する知識を有するスタッフが治療を行うことにより、安全にこの新しい免疫治療を患者さんに提供できる体制を整えています。

3.大腸癌治療
1)低侵襲手術

腹腔鏡を用いた低侵襲手術を積極的に行い、術後の疼痛、腸管癒着などを和らげ、早期退院に努めています。また平成30年4月からはロボット支援下直腸癌手術が保険収載となり、当科も施設基準を満たしており、行うことが可能となりました。

2)機能温存手術

直腸癌では手術の進歩により、従来では人工肛門を付けざるを得なかったような症例に対しても、肛門を温存することが可能になってきました。ISR(括約筋間直腸切除術)はその代表です。また肛門近くにある進行がんに対して、術前に放射線化学療法を行うことで、膀胱、前立腺などの臓器温存や、肛門温存が可能となる症例もあります。ロボット手術の導入も機能温存に極めて有用であると考えています。

3)化学療法

切除不能進行癌や再発癌に対しても化学療法を行うことで、生活の質を保ちながら長期生存が得られるようになってきました。また一部の症例は切除が可能となる場合もあります。切除できれば治癒する可能性がありますので、常に切除ができないかを考えながら治療を行っています。

4.肝臓癌治療
1)手術治療

肝切除が基本ではあるが、肝機能が悪い症例には、開腹下マイクロターゼ凝固療法も積極的に展開しています。マイクロ波やラジオ波で癌を凝固壊死させる治療法を取り入れ、リスクの高い患者様でも、体の負担が軽くてすむ治療を目指しています。

2)生体肝移植

劇症型肝炎、肝硬変症、非代償性肝硬変合併肝臓癌の患者様に対しては、十分な説明のもと生体肝移植も適応としております。

5.膵臓がん

全国統計で、がんの死因の第4位になっており年間約3万人の方が膵がんでなくなっています。根治のためにはがんの取り残しなく切除することが必要ですが、再発する頻度も多く生存率の向上のためには手術のみならず化学療法や放射線治療など集学的治療が必要で、そのため消化器内科や放射線科と連携して予後向上をはかっています。

1)手術治療

切除可能な場合は当科初診から4週間以内に手術を行えるよう努めています。門脈という血管に高度浸潤があった場合や主要動脈に半周以下の接触や浸潤があった場合には術前治療(化学放射線治療)でがんを小さくしてから手術を行っています。それ以上の浸潤があったときは、手術ではなく化学療法や放射線治療が標準となりますが、よく効いて手術で切除ができそうな状態になれば積極的に手術をおこなっています。

2)化学療法、放射線治療

術前治療や術後補助療法、あるいは切除不能や術後再発に対しておこなっています。術前治療は化学療法と放射線治療の組み合わせの治療です。術後補助療法はTS-1という抗がん剤を使った化学療法です。術後再発に対する治療は主に化学療法となりますが、患者さま一人一人と相談して納得のいく治療法を行うようにしています。

胆道がん

肝臓から出て十二指腸に排泄されるまでの胆汁の通り道を胆道と呼び、そこにできたがんを胆道がんといいます。胆道がんはできた場所によって肝門部領域胆管がん、遠位胆管がん、十二指腸乳頭部がん、胆嚢がんにわけられます。

1)手術治療

がんの根治のためには手術による切除が必要です。がんのできた部位や進展範囲で最適な手術の方法を決めています。大きな手術が多くありますが、がんの遺残なく切除できれば長期予後も期待できるので、積極的に切除をおこなうように努めています。

2)化学療法、放射線治療

切除不能と判断された場合や術後再発した場合におこなっています。化学療法はジェムザールとシスプラチンを併用した化学療法を第一選択にしています。条件によっては放射線治療も行うことがあります。